今年も地球が回っている―日出入の方位計算まで

 明けましておめでとうございます。4年ぶりに自宅で迎えた元旦はよく晴れていたので、初日の出を見ることができました。


 初日の出 2018 @茨城・守谷
 
 この日の出を見ながら、太陽が動いて見える速さに想いを馳せていました。その概算は簡単で、太陽の視直径が0.5度ほど、太陽は一日で地球の回りを一周する(360°動く)ように見えるので、およそ2分間で太陽1つ分、太陽が動いていくように見えることがわかります。


 初めの写真の2分後。太陽の位置がそれ一つ分ズレて見えている、はず。

 こうやって太陽を見ていて、①これは地平線に対してどういう角度で沈んでいくんだっけ、とか、②日出入の方角(天文学で正しくは方位角ですね)は計算できるんだっけとか、③昼間の時間の長さは・・・とは気になったので試してみました。

 結論を言うと、①は楽勝、③の方は逆三角関数も使うことで可能(arccos、cos^-1 などと書くやつ。私は今回初めて実際の計算に使いました)、②は球面の幾何学をより深く理解しないとできないようでお手上げでしたが、算出する式は見つけることができました。

 以下、まずは観測地点の緯度Φを、北関東を横断する北緯36°として考えてみます。

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 ①地平線に対する日出入の角度
 これは楽勝。この角度xは、季節を問わず

x=90°-Φ
 =90°-36° で
 =54° です。


 このことは、太陽を初めとするすべての星が、赤道では季節を問わず地平線に対して直交の向き(90°-0°=90°)で出入りし、北南極では季節を問わず、すべての星が地平線と平行(90°-90°=0°)に日周運動することから(←実際に見たことはないのですが・・・)も理解することができます。

 なお、春分秋分以外では太陽が真東・真西に出入りせず北か南に寄った位置に見えるので、太陽の昼間の南中高度yは上の54°にならず、赤緯δも効いてきて、

y=90°-Φ+δ となり、

例えば北関東(北緯36°)での冬至赤緯-23.4°)のときは

y=90°-36°-23.4°
 =30.6° となります。冬の太陽は本当に低い。



 なお、上の絵を描くと、赤道近くと極地方のそれぞれから太陽が見える方向は、互いに平行と言っていいのかという疑問が湧きますが、


地球から太陽までの距離が約15000万km、一方で地球の半径は0.64万kmしかないので、北極から太陽を見る方向と赤道から太陽を見る方向との角度差aはわずか、

a=arctan(0.64/15000)
 =0.0024° しか変わりません。

 逆に言うと、太陽から地球を見ても北極と南極は、0.005°、つまり18秒ほどの角直径でしか見られないというわけです。小さい・・・(1秒は1°の3600分の1)。これは地球から見る他の惑星と比べると、火星の大接近時や、土星の視直径に相当します。これよりも地球から大きく見えている木星の視直径が32~45秒ほどですから、肉眼ではどう頑張っても「点」ですね。
 そもそも、地球の直径は太陽のそれの109分の1なので、太陽から地球を見るとその大きさは、地球から見える太陽の109分の1にしか見えないわけですが。と言っても、太陽の大きさって普段ほとんど意識しないので、よく分かりませんね。はい。

 しかし、上の図を描いてみて感じたのは、太陽からそれを100個ちょっと並べたら、もう地球に届いてしまうのかということ。意外と地球は太陽から近いと言うべきか、太陽は大きいんだと言うべきか。

惑星から見た惑星の大きさ
火星の接近国立天文台)-動画が面白い
火星の大きさ(AstroArts)
 地球から見た火星は大きく見えるときで、1キロメートル先に置いた直径12cmの円くらいの大きさとのことです。直径12cmってどのくらいかと言うと、大人の手のひらサイズ。そんなもの1km先にあっても、ほとんど見えないではありませんか。
金星を観察しよう(AstroArts)
木星の視直径: 32~45秒ほど(月惑星研究会)

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 ③昼間の時間の長さは、観測地点の緯度Φと太陽の赤緯δから計算できるのか?

 本当は②の「日出入の方位角」の算出方法を先に考えている中で、ある緯度の地点での昼間の時間の長さ(ある緯度一周のうち太陽の光が当たっている部分の割合)、つまりこの「昼の時間」を知れば方位角の方もわかるかと考え、計算を始めてみたのでした。

 まず、地球の半径を「1」として緯度Φで地球を輪切りにすると、切り口の半径=cosΦ になります。

 このとき地球から見た月が「上弦」の半月だったとして、月面から地球を見るとこんな向きに見えるはずです。



 で、いま知りたいのは緯度Φの地点のうち昼間の部分の割合なのですが、この地球を北極側(上の⇒)から見て北緯Φ度以上の部分だけを切り出すと、昼の部分はこれしかないんですね。



 で、この図の円の中心に書いたθを求めれば、円弧の地点のうちの昼の部分の割合が 2θ/360 として求められます。この切り口の直径は前述のとおりcosΦ。となるとθは、

cosθ=tanΦ×tan(-δ)
∴ θ(Φ,δ)=arccos(tanΦ×tan(-δ)) …⑪

と出せるではあーりませんか。早速、試しに北緯35°、冬至のときのδ=-23.4°を代入してみます。

θ(35°,-23.4°)=1.2630 rad
 =72.365°

 これが正しいとすると 2θ=144.73°となり、北緯35°地点での冬至のときの昼の長さは9時間39分(=24 h×144.73/360)となる。おかしい・・・ 北緯35.6°ある東京の冬至のときの昼の長さは、9時間45分あるはずなんですよね。

 この違いを見て、昼の定義が「太陽の少なくとも一部が地平線または水平線より上に出ている時間」であったことに気づきました。つまり、太陽の中心が地平線からさらに太陽の視半径の分より "下" より高い位置にあれば、その間は「昼」なんだよなと。

 そこで、上の式⑪の右辺に太陽の視半径ぶん×2(日出・日入)すなわち視直径ぶんを加えてみます。ついでに、せっかく①で「地平線に対する日出入の角度」も出したので、これも使いましょ。

 太陽の視直径はこちら→「太陽半径Wikipedia)」にありますが、北半球が冬のときの地球は近日点に近いので、視直径32.5分=0.542°を使ってみます。

θ(Φ,δ)=arccos(tanΦ×tan(-δ))+(0.542°/cosΦ) …⑪’
θ(35°,-23.4°)=1.2745 rad
 =73.0235°

 補正後の「北緯35°地点での冬至のときの昼の長さは」24 h×146.047/360 =9時間44分。こんな感じかな。太陽の視直径は平均値をとって0.533°としても、結果がほとんど変わりそうにないのでそちらを使うと、

 昼の長さ n(h) は、
n=2(arccos(tanΦ×tan(-δ))+(0.533°/cosΦ))×24/360°
で算出できそうです。一つクリア。

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 で、残ってしまったのは②、「日出入の方位角」の算出方法の方。これを知りたいと思ったのは、年末に守谷駅から日没を見るとちょうど富士山の後ろに日が沈むので、


 この方位角を計算で出せるかどうかを試したかったのですが。

 その算出には球面幾何学の原理が必要なようで、私の力では叶いませんでした。調べてみるとどうやら、天体高度hと時角t、さらに方位角をAをおくと次の二式が成り立つそうで、

sin(h)=sin(δ)*sin(Φ)+cos(δ)*cos(Φ)*cos(t)
sin(A)cos(h)=cos(δ)sin(t)
 (※時角t:天体がその観測地の子午線を通過してからの時間を、1時間=15°として表したもの。方位角A:天球上の一点と天頂を含む大円が地平線と交わる点と、真南の方向との間の角。通常の座標と異なり西回り=右回りをプラスとする。)

一つ目の式に観測点の緯度Φと太陽の赤緯δのほか、日の出入を示す高さh=-0.026°を代入すると、tを下のように求めることができ、

cos(t)=(sin(-0.026°)-sin(δ)*sin(Φ))/(cos(δ)*cos(Φ))
∴ t=arccos(0.00045-(sin(δ)*sin(Φ))/(cos(δ)*cos(Φ)))

二つ目の式から太陽の方位角Aもわかるのだそうです。

sin(A)=(cos(δ)sin(t))/cos(-0.026°)
∴ A≒arcsin(cos(δ)sin(t)))

 試しに冬至の時期の茨城・守谷、
 Φ=36°
 δ=-23.4° のときのtを求めると、

t= 1.25 rad = ±71.62°
A= 1.06 rad = ±60.57°

となり、冬至の時期に守谷から見られる日出入の方位角が±60.57°、測地でいう方位としては180°±60.57°と出すことができました。日入の方位の算出値が 60.57°と、ここから見た富士山のおおよその方位 240°にたしかに日が沈むことも確認できました。

 それでさ。

 この「一つ目」の式、私が上で書いていた式⑪と同じではありませんか。ポイントは「時角t」「方位角A」の概念を使うことだったということでしょうか。その意味は後ほど考えたいと思います。


 2017.12.30の日入 @茨城・守谷

 大晦日は曇天だったので、この日没が守谷では実質的に昨年最後の太陽でした。この時期の日没の方位を知ってか、駅近くの歩道橋に何人も人が来ていました。

●6年前も―富士山頂に日没@守谷(2011.12.30)
●地上の点の緯度を知るには、これが便利そうです。
 ⇒Geocoding

 今日の計算おしまい。


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2021年5月追記: 三角比について面白い話を見かけました。


2021年12月追記: 大晦日の夜、9歳の人からの出題。
 9歳「本州で一番初日の出が早いのは、あそこだよね。」
 私「あそこだよね、犬吠埼!」
 9歳「ちがうよ、富士山だよ。」
 私「そっか・・・」(しまった!)

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Climate-driven polar motion: 2003–2015 (Adhikari S and Ivins ER, Sci Adv, 08 Apr 2016)
 地球の自転軸を確認しているうちに見つけた面白い記事。日本語解説⇒北極点がヨーロッパ方向へ急移動と研究発表「原因は氷河融解や地下水くみ上げなど大規模な水の移動」とのこと。

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●言葉チェック
・緯度 latitude, 経度 longitude
赤緯 declination, 赤経 right ascension
・天球 celestial sphere
・方位角 azimuth, 方位 direction
・近日点 perihelion, 遠日点 aphelion
冬至/夏至 winter/summer solstice
・春/秋分 spring/autumn equinox
・仰角 elevation angle
三角関数 trigonometric function / circle function
・逆三角関数 inverse trigonometric function
 / cyclometric function