卒業生の論文発表―超音波式加湿器から放出される微小粒子

 私が大学院生(2013年3月修了)と、超音波式加湿器から放出される微小粒子を研究した成果が、専門オンラインジャーナル誌 Particle and Fibre Toxicology に受理(アクセプト)されました。➡論文はこちら

 「日常生活と健康」に強い関心を持つ大学院生と取り組んだ、ラボの中でも特色ある研究課題でした。大学院生が協力者と共に、多様な実験をこなしてくれた成果が公開されることになり、嬉しく思っています。

 多くの人に身近なものを使った研究成果なので、内容を以下に少し紹介してみたいと思います。(情報の多くは、論文の著者であるKeisuke Sekitaくんが調べてくれたものでもあります。)

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 はじめ、粒子を見つけたときは正直ただ驚きました。超音波式加湿器(一部のアロマ式を含む型)を水道水で運転すると、霧の中に不溶性の粒子があったんですね。粒子の吸入による健康影響を研究している私たちにとって、これを見過ごすことはできませんでした。

 超音波式加湿器は水を加熱しないために、霧が熱くない(子どもが近づいても危なくない)というメリットがあります。一方で、水を超音波のエネルギーで蒸発させるために、加熱では霧にならないような成分(細菌とか)も霧にしてしまうというデメリットがあるのです。
 そのため、(説明書にも記載がありますが)他のタイプの加湿器以上に、よく掃除をしながら製品を使うことが推奨されています。といって、水の中に殺菌剤を入れるとその薬も霧として放出されてしまい、重大な健康被害を引き起こしてしまった例があるのです。
 ⇒加湿器殺菌剤による死亡事故多発、有害物質が新たに判明=韓国(2013年4月12日)
 ・関連論文も発表されています。⇒Environ Health Toxicol 2012

 今のところ、日本で問題が起こった例はなさそうです。しかし、細菌や殺菌剤の混入がなくても粒子はできます。問題を未然に防ぐために、これはしっかりと調べなければいけない、と思いました。

 結論だけ述べますと、水道水を入れて運転した超音波式加湿器からは、確かに霧の中に粒子が存在していました。生体影響についての結果は、いくらか、私たちを安心させてくれるものでした。
 当然といえば当然ですが、肺は大気中のものに対してある程度防御をできる機能を持っています。この防御機能が、水道水で超音波式加湿器を運転したときに放出される粒子(エアロゾル)に対して働くことを確認できたのです。
 同時に、超音波式加湿器を使う上での注意点も見出すことができ、論文でもそのことを報告しました。
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 ①とくに硬度の高い水道水を用いると、放出される粒子の濃度が高くなるので、市販の水(できれば精製水)を用いること。(他国では、室内環境でSPMが6.3mg/m3になったという例が報告されています。)
 ②肺の防御機能が低下している、呼吸器疾患患者のいる室内での使用は控えること。もしくは、超音波式加湿器に入れる水を精製水(可能であれば純水。純水は、必要な機器がないとなかなか手に入りませんが)にすること。
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 患者がいる環境で事業者がこれを使う場合には、使用する水の硬度、超音波式加湿器による水の消費速度、放出する部屋の広さ、換気率に注意が必要になるでしょう。
 安全な加湿器の使用のために、公開されたら、多くの方に読んでもらえればありがたいです。私たちも今後、必要な情報提供をしていきたいと思います。


 Umezawa M, Sekita K, Suzuki K, Kubo-Irie M, Niki R, Ihara T, Sugamata M, Takeda K: Effect of aerosol particles generated by ultrasonic humidifiers on the lung in mouse. Part Fibre Toxicol, Accepted on Dec 17, 2013.
 ⇒こちら

 2014年6月17日、Global Medical DiscoveryでKey Scientific Articlesとして取り上げられました。⇒こちら

 さて、今回の論文発表では、その論文の審査でも印象に残る過程がありました。そのことも少し書き留めておきたいと思います。

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 論文を投稿したのが、2013年8月28日で、審査の結果が返ってきたのが9月29日でした。審査員は3人いて、2人は「興味深いし重要な研究成果だ」と、ほぼ手放しで認めてくれる評価。で、残る1人が、おそらく “加湿器からの粒子” の専門家(!)だったのです。

 その審査員は、私たちの研究の価値を認めつつ、いろいろと教えてくれたり指摘したりしてくれました。それは審査結果の可否を超えて、大変勉強になる経験でした。(コメントは大小含めて18個でした。)

 この審査員は、技術的・表現上の指摘以外にも次のようなコメントをくれました。

 Particle generation and release and associate exposure of the public by using humidifiers based on ultrasonic nebulizers is only sparely studied and perhaps significantly neglected in the community.
 超音波式加湿器から出る "white dust" は詳細に研究されなければならないのに、十分に研究される社会でも注目されていないのは問題だ。
(※日本だけの話ではありません。国際学術誌での審査ですし、審査の返事も英文ですし。)

 上の①の文言を論文に入れるようアドバイスをくれたのもこの審査員です。さらに、嬉しいことにこうも言ってくれました。

 This study can add significant additional data to this topic and may support decision makers to protect the public from possible harm due to ultrasonic nebulizers in humidifier systems, although the study did not show direct highly toxic adverse effects in the lungs of mice.
 本論文は、顕著な健康影響はないと結論づけているが、政策・意思決定者に有用な知見を提供するものであろう。


 ひとまず、一仕事のひと区切りということで、ごり、おめでとうー。卒業生と都内でお祝いを!

大学院生の論文が受理されました(2013年7月26日)

 

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