論文出版からの嬉しい国際会議での再会@Neuss―ナノ粒子吸入曝露による発達神経毒性

 先週はドイツNRW州、Neussでの国際会議に参加していました。今回の会議では直前にデンマークのKarin Hougaardさん、Ulla Vogelさん達との論文が出版・公開になっていたので、彼女たちといつも以上に嬉しい再会になりました。

Umezawa M(*), Onoda A(*), Korshunova I, Jensen ACØ, Koponen IK, Jensen KA, Khodosevich K, Vogel U, Hougaard KS:
 Maternal Inhalation of Carbon Black Nanoparticles Induces Neurodevelopmental Changes in Mouse Offspring.
 Particle and Fibre Toxicology, 15: 36 (Sep 10, 2018)
 [Original Site] [PubMed] (*Equal Contribution)


 QRコードをパシャっとして頂ければ論文にアクセスできます。共同研究者たち、とくにAtsuto Onoda、Konstantin Khodosevichさんの検証による美しいFigureなど、ご覧いただければ幸いです。

 人の縁というのは不思議なもので、今回はふとした拍子からポンポンと共同研究の話が進みました。
 2年ほど前にも少し書いていましたが、このデンマークグループのUlla Vogelさんと初めて直接に意見を交わしたのが、2013年10月名古屋での学会。その後の再会での意見交換が、2014年4月トルコでの学会。そして再び話し込みながら、共同で検証を始めることにしたのが2015年10月南アフリカでの議論。


 そのとき周りにいたAtsutoが撮ってくれていた写真、手前がUllaさん。Ullaさんは話の裏で、そのグループの実験を取りまとめている先生に即メールを送ってくれていたのでした。その送り先が、今回の論文のlast authorでコレスポ(責任著者)も務めてくださったKarin Hougaardさん。そこから共同研究が始まりました。

 そのKarinさんと初めてお会いしたのは、2016年3月の米国フェニックスでの学会のとき。このとき私は学会初日のポスター討論の場所でしゃべり過ぎて、声を潰してしまったのでした。声にならない声で話したのが、たぶんKarinさんにとっての私の第一印象。
 その後、先方の研究所に初めて訪問したのが、2016年7月に別の学会でコペンハーゲンに行ったとき。この頃には常にメールがやり取りされていたので、いつ会っていつ会っていないのかをもう覚えていませんが、翌年にはその研究所にAtsutoが一ヶ月滞在し、研究留学させてもらいもしました。

 今回の論文では、呼吸器から体内に入るナノ粒子の妊娠期曝露が児の脳に引き起こす広汎かつ持続的なアストログリオーシスについて、吸入曝露実験での確証をとることができました。さらに、海馬におけるparvalbumin陽性介在ニューロン(PV+ INs)が、その曝露により減少することを新たに捉えました(in mice)。行動試験は項目が少なく、多くを考察することはできていませんが、そのデータも合わせて載せています。
 このPV+ INsについては、これが脳におけるある種の病理の鍵であろうという論文が今週も発表されており(Marissal et al. Nat Neurosci 2018)、しばらく研究の進展をモニターしなければと思っています。

 結果として、当初の予定と別のデータも得られ、面白い論文にできたと思っています。ただし、私の初めにドラフトした原稿のストーリーが、最後までどれくらい残ったのかは怖くて確認できません。それだけ濃密な議論のできた共同研究でもありました。

 それと同時に、Discussionの終盤では本論文の限界についても言及し、そこをfuture studiesで検討しなければということもいくつも書きました。そのいくつかは、査読に対応する中で書き加えたものもあります。が、その検討はいったい誰がどんなリソースを割いて? 衛生学のすぐ隣にあるregulation(法規制)に堪えるデータを揃える「regulatory toxicology」大変さをなお実感し、その先の道のりの長さをイメージするとややクラクラしさえします。

 それでも、今回の学会中に今後の方針と超具体的な次の一手についても議論し、決めて帰ってくることができました。研究は楽しいと前から思ってはいましたが、実際こんなに楽しいものだとは知らなかったなと思いながら。そう思わせてくれる人たちに感謝しながら、今回のドイツから先週末帰ってきたところです。



 学会を終えた後、空港に向かう前にNeussのマーケット(Markt)に寄り、念願のドイツ料理のお店「Schwan」にも行くことができました。


 Curry Wurst@Schwan Restaurant Neuss am Markt。現地の元同僚も勧めてくれなかったドイツ料理でしたが、美味でしたよ。


 夜に外から眺めていた修道院聖堂Basilica of St. Quirinusの中も、帰国前に見学できました。





 さて、帰国したらやることがてんこ盛り!



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空の澄んだ9月のデュッセルドルフ~ノイス@ドイツ(2018年9月17-20日
ドイツの鉄道旅・デュッセルドルフ~ケルン~ハイデルベルク(2018年9月18-19日)
ドイツ・アーヘン(Aachen)の歩き方(2018年9月20日
論文出版からの嬉しい国際会議での再会@Nanotoxicology2018, Neuss―ナノ粒子吸入曝露による発達神経毒性(2018年9月20-21日)
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国際シンポジウムNanOEH6@名古屋(2013.10)
Nanotoxicology 2014 @Antalya, Turkey(2014.4)
南アフリカ5日目、宇宙と大地とディスカッションと(2015.10)
学会初日に喉を枯らした米国SOTフェニックス(2016.3)
コペンハーゲンの先生と、街の散策とセミナーとディスカッション(2016.7)
研究留学する大学院生を置いて帰路へ(2017.6)
私なりの研究国際展開で考えた7つのこと(2017.2)