今月は上旬の2024年11月5日に米国の大統領選挙が行われ、年明けにドナルド・トランプ氏が4年ぶりに大統領職に就くことが決まりました。歴史的な大接戦になるのではないかという事前の報道があった中で、それを覆しての早々の決着。トランプ氏は一度4年前(2020年)に、現職の大統領として二選目の大統領選挙に負けていましたが、このように再選に失敗した後に “復活” の当選を果たしたのは132年ぶり2回目(1892年の共和党・ハリソン氏以来)ということでも話題になりました。カマラ・ハリス氏と勝敗を分けた要因についてはいろいろな分析がなされていましたが、ここでは今回重要だと思った事実を整理しておきたいと思います。
まずは、「カマラ・ハリス 3つの悩み(渡辺将人さん, 2024/10/30)」としてSPF笹川平和財団にある記事が分析していた、ハリス氏の強さと弱さ。その中で重要だと思ったのが、ハリス氏が予備選を経ずに大統領候補になっていたことの弱さです。今回は現職のバイデン大統領が2024年6月末にあった討論会で、高齢に伴う不安を露呈してしまって直後に大統領選挙から撤退しました。その撤退が、予備選が終わり共和党のトランプ氏との討論会が始まった後の時期になってからであったために、バイデン政権の副大統領であるハリス氏が大統領候補に上がることになりました。そのため、ハリスさんが予備選を経ていなかったことが、彼女の一つの弱点だったのではないかという分析です。6月末の討論会でのバイデン大統領は確かにひどかったのですが、とにかくその時点まで現職から候補者を変えられずにバイデン氏を引っ張ってしまった、これが民主党の戦略ミスだったという話です。
予備選は米国の一番の顔・指導者である大統領を選ぶための、格好の論争の場。同時にそれだけでなく、候補者がそもそも大統領候補として社会の中でどう受け入れられていくかとか、大統領になった後の党内での説得力・威信だとか、それらの礎として予備選での勝利は重要であるわけです。しかし、ハリスさんはこの予備選を経ずに大統領候補になってしまい、党内の基盤も決して強くはなかった。その弱さも不安視されたことが、トランプ氏の圧勝につながったと言えるのではないかということです。米国ではこの予備選の時期も含めた長期間に多額な資金も投入され、それももとに論争や討論の場が設けられて、行われる政策その他の議論の上に選挙が行われるわけです。一方の日本では、政治家を続けるのにお金が必要であることの問題が取り上げられることが多いのが現状ですが、お金をかけることを悪としてしまうことで生じる損失も見落としてはいけないだろうと改めて思ったところでもあります(とはいえアメリカでも、共和・民主両党の候補者が互いの非難合戦に多くの時間を割いたことへの失望や批判もあるわけですが)。
続いて、大統領選挙の開票結果が出た直後に堀江貴文さんが「アメリカ大統領選について解説します (YouTube, 2024/11/6)」をお話しされていました。ここでは、トランプ氏についたイーロン・マスク氏が、選挙にSNS、特にX(旧ツイッター)が重要だろうということを見越した上で、ツイッターの買収以降の彼の行動があったのではないかということも。彼が描いたその活用が、今回一つこの選挙に効いたと言えるだろうということをお話しされていました。 今年の米大統領選では、イーロン・マスク氏に限らず、シリコンバレーを含めたテック業界の人たちが、今回はトランプ支持であったということも言われています。これは、トランプ氏の経済政策に期待した面もあろうと言われていますが、木下斉さんが「トランプ再選で考える、テック業界が30年経て保守かつ上流階層となった米国社会の変容 (Voicy, 2024/11/7)」で別の視点でお話しされていました。それは、新しい社会の旗手であり象徴でもあったテック業界が、その勃興から30年を経て地位を確立し、いよいよ保守側に回ってきたということなんじゃないかという分析です。テック業界はこれまで比較的リベラルで民主党への支持が強く、実際に今回も、シリコンバレーがあるカリフォルニア州はもちろん民主党が取っています。そんな中でも、テック業界の人たちが従来と違って保守化し、今回のトランプ支持に回ったことは重要な変化であったと思われます。このような動向や結果は、リベラル(米国での民主党)はよっぽど視点・戦略を変えないともう勝てないのではないか、とも思わさせられる選挙になったのではないかと思います。
他にもNewsPicksの記事では、「ドナルド・トランプ、歴史的勝利の『5つのポイント』(NewsPicks, 2024/11/7)」という速報を出しており、その中ではコロナ禍後に世界的に起こっているインフレ(これは米国では、他国と比べても特に強い)の影響についても書かれています。民主党への支持はもともと高所得者で、いわゆる生活に余裕がありリベラルや自由な考え方を支持できる人たちが支えているという分析がありますが、その民主党が中低所得者を直撃しているコロナ禍後のインフレの影響を甘く見たのではないか、ということです。さらに、日本の衆議院議員の細野豪志さんは「米国大統領選挙の選挙結果について緊急生配信 (Voicy, 2024/11/6)」で、トランプ氏がゴミ収集車に乗ってみせたりマクドナルドのドライブスルーの店員に扮したりという、庶民に近い姿勢を見せたことも、今回の選挙に効いただろうということをお話しされていました。
このように、とにかく2024年の米大統領選は(毎回そうではありますが)いろいろなことがあった選挙だったと思います。一度現職の大統領として、4年前に選挙で負けたトランプ氏が再選を狙っていたこと、実業家の代表格であるイーロン・マスク氏がかなり全面に選挙に関わってきたこと、ただその前で言うと現職の大統領であるバイデン氏が予備選後のトランプ氏との討論会が始まった中で大統領選から撤退したこと。歴史的な大接戦の予想から、歴史的なトランプ氏の勝利といくつも報道がなされたわけですが、今秋の選挙を受けてこれから決まっていく、また変わっていく米国の方針戦略が、地政学的バランスや自由貿易など世界にも少なからず影響しますので、この後も注意して見ていきたいと思います。
※画像の出典: BBCの米大統領選2024速報(2024/11/5 日本時間20時)から。