体内深部の蛍光温度イメージングの研究発表@Quantitative Bioimaging2019

 2019年初めの出張は、フランスのレンヌ (Rennes) に来ています。写真はレンヌの美しい市庁舎。



 この近く、旧市街にある会場で開催中の国際会議Quantitative Bioimaging (QBI) 2019にて、研究発表を行ってきました。



 発表してきた内容は、あるナノ粒子から出る近赤外蛍光の特性が温度により変わることを使って、非接触に体内深部の温度をイメージングしようとしている試みです。

 この最近の研究成果は、私の材料工学科(3年目)で初めてのco-corresponging authorとしての論文として、2018年11月に出版になりました。



 ⇒Sekiyama S & Umezawa M et al.
 Temperature sensing of deep abdominal region in mice by using over-1000 nm near-infrared luminescence of rare-earth-doped NaYF4 nanothermometer. Scientific Reports 8: 16979 (2018) [Full-Text] [PubMed]

 温度に応じて発する蛍光の変わる近赤外蛍光体を使えば、体内深部の温度が分かるだろうと言われていましたが、実際やってみるとどうなのよ、ということを検証してレポートしたのがこの論文です。いくら生体組織の透過性の高い近赤外光を使っても、それで深いところの温度を非接触で測定するのは一発OKというわけにはいきませんでした。

 まず、そもそも蛍光温度計が正確に働いているかどうかを確かめようにも、体の中の深い場所の温度が実際に何度かを知るのが簡単でありません。“なんちゃって外科医”かのような細かい作業をしながら試行錯誤を繰り返す場面もありました。(実際には、私の手元でのバイオ実験に来る前に、より良いナノ粒子を設計・合成するための試行錯誤もたくさんありました。)

 また、この蛍光温度イメージングでは、温度に応答する波長1150nmの蛍光強度を、波長1550nmの蛍光強度で除して規格化することで温度を算出するのですが、温度を変えたときの算出値(*1) を、測定対象の深さで補正しないといけないことも分かりました。

 (*1) 二波長の蛍光強度比を使っていて、論文では "I(Ho)/I(Er)" や LIR (luminescence intensity ratio) と記述しています。

 この事実は正直に言うと、論文の審査員からのコメントで指摘され初めて気づきました。その原因を考える中で、水による光(近赤外光)の吸収するパターンが温度により微妙に変化するという事実も知りました。
 生体試料を使う研究では、常にartifactによる測定の妨害を排除するのに気を遣います。論文の審査で、それまで気づいていなかった問題を指摘されたときは、artifactを排除し切れていなかった(つまり実験が失敗していたかもしれない)可能性が頭をよぎって顔が青ざめました。
 この現象の原因を説明してくれる、水による近赤外光の吸収スペクトルの変化を報告した論文を見つけたとき、実験自体は問題なくできていたことが分かりひと安心。1964年に発表されていたこの論文が、今回の救いの神でした。


●Goldstein R & Penner SS: The near-infrared absorption of liquid water at temperatures between 27 and 209°C. J. Quant. Spectrosc. Radiat. Transfer 4, 441–451 (1964)

 私たちの今回の論文には、言い訳にもなってしまいそうな次の考察を9ページ目に記述しています。

"We hypothesized that the relative change of the LIR with temperature should not be affected by different transmittances through biological tissues at the measuring wavelengths; however, it is affected. The relative thermal sensitivity decreased as the thickness increased. This decrease is possibly due to shifting the absorption band of water in NIR to shorter wavelength by temperature increase."

 体内深部の蛍光温度イメージングでは、蛍光プローブの蛍光強度(量子収率)、蛍光特性変化の温度に対する感度、そしてプローブ自体の生体適合性が重要になります。これらの点を改善する研究を今も続けているので、次にまた良い論文を報告したいと思うところです。

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 パリのモンパルナスから、一時間半TGVに乗って着くレンヌの駅。工事中でしたが、建設途中の曲線的な駅舎が見えています。写真は冬季で遅い日の出前。北緯48°あるこの場所では、「明けの明星」金星が東よりずいぶん南でも見えることに驚きました。





 午前8時すぎでこの明るさですが、朝走っての町回りも楽しんでいきたいと思います。