論文発表―OTN近赤外蛍光CT(断層画像法)

 2016年から取り組んでいた、新しい蛍光三次元イメージング法の論文を先月発表しました。生体深部(深さ~2 cm)の精細かつ動的イメージングに適した、波長1000 nm超の (OTN: over thousand nanometer) 近赤外蛍光の断層画像法です。


●Umezawa M, Sera T, Yokota H, Takematsu M, Morita M, Yeroslavsly G, Kamimura M, Soga K: "Computed Tomography for In Vivo Deep Over-1000 nm Near-Infrared Fluorescence Imaging" J Biophotonics, in press (doi: 10.1002/jbio.202000071)

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 OTN近赤外光は生体による散乱を受けにくく、深部の精細なイメージングを可能にします。生体内部を観察した画像をCT(逆投影)すれば、側面から撮った画像から断面像(断層画像)を再構成できます。その断面像を積層すれば、ターゲットの三次元像を得ることができるだろうというのがこの研究の出発点です。

 しかし、そこは実施例のまだ多くないOTN近赤外イメージングの原理検証。ことは単純ではありませんでした。

 近赤外光は生体を透過するといえど、X線などと異なり「目に見える光」に近い性質を持ち、試料の内部から出てくるとその表面で屈折・反射します。そのためこれを抑える工夫なしには、試料内部から出る光の像が大きく乱されてしまうのです。光がどのように屈折・反射するのかは、その場所にある物質の屈折率によって決まりますが、空気は生体よりも小さい屈折率(空気 1.0 vs 生体 1.4)を持ちます。

 そこで、試料を水浸して生体の表面での屈折率差を小さくしたところ(水の屈折率は1.33)、試料表面における蛍光の屈折及び反射の問題が抑えられ、より正確にOTN近赤外蛍光体を断面像上に描出できたのでした。

 このテーマは私にとって、初めての経験が飛び抜けて多い研究でした。
・曲面鏡を使った光学実験システムづくり
・回転試料台とカメラでの撮像とを同期するための電気回路制御
シリコーン樹脂を固めて寒天ゲルに埋める
とか・・・。初めて2年半もした頃には、いつの間にか私がこれを学生に教える方になっていましたが、自分で理解するまでそれぞれの要素に強い学生に多くのことを教わりながらの研究でした。

 ラフなスライドですが、日本語で解説したスライドも公開しました。⇒コンピュータ断層画像法(CT)による三次元OTN近赤外蛍光イメージング (SlideShare)

 これを一つのステップとして、これからもっと面白いものを「みせて」いきたいと思っています。

www.slideshare.net