こちらも先月ですが、私が薬学部にいたときの大学院生・小野田淳人さんとの論文がアクセプトされ、公開されました。大気中の微小粒子状物質PM2.5の主な構成要素の一つであるブラックカーボンナノ粒子が、発達期の子の脳に及ぼす影響のメカニズムを報告したものです。
Onoda A, Kawasaki T, Tsukiyama K, Takeda K, Umezawa M, (June 2020) "Carbon nanoparticles induce endoplasmic reticulum stress around blood vessels with accumulation of misfolded proteins in the developing brain of offspring," Sci. Rep., 10: 10028, DOI: 10.1038/s41598-020-66744-w.
私たちは以前の研究で、体内の老廃物や変性タンパク質に多いβシート構造が、幼若期のカーボンナノ粒子曝露で脳血管周囲に増えることを報告していました (Onoda et al. Front. Cell Neurosci., 11: 92, 2017)。ではこの、老廃物と考えられる物質の増加が本当に脳血管周囲の細胞に負荷をかけているのか。以前は明らかにできていなかったこの部分を、小胞体(ER)ストレスマーカーの発現を指標に検証したのが今回の論文の内容です。
結果、ERストレスマーカーは粒子曝露群のアストロサイトと脳血管周囲マクロファージ (PVM) で高く、特にGFAPを高発現しているアストロサイトで強いシグナルが見られました。曝露群の脳血管周囲にも、酸化ストレスマーカーを発現した細胞(アストロサイト、PVM)と発現していない細胞とがありましたが、特にこのマーカーを高発現した細胞の周り数十μmスケールのエリアで、βシート構造の多い分子が増えていることを示す赤外吸収が見られることも明らかになりました。
今回の論文ではこの観察結果をもって、2015年ごろから国際学会で議論を深めてきたこの図を学術論文として公開できたのが嬉しいことでした。Solidなナノ粒子の重要な生体影響メカニズムとして酸化ストレスが知られていますが、それと別にタンパク質二次構造変化とERストレスを介した経路があるのではないかということを、組織病理学的な検証で捉えたのが今回の論文の趣旨でした。
Fig. 3b-c @Onoda et al. Sci. Rep., 10: 10028 (2020)
また諸々の新しいデータをもって、色々な専門を持った人たちとの次の議論を通して知見を深めていきたいものです。しかし、2020年秋のNanOEH(デンバー)、2021年春のNanoTox(エディンバラ)、今秋から2021年5月への延期となったMicroplastic Colloquium(リスボン)と、期待していた会議の開催が不透明なのが残念なところ。対面での “ぶっちゃけ” 議論をできるようになるときが、また早く来るよう願うばかりです。