ナノ粒子の機能的ターゲットとなる脳領域の探索(遺伝子発現データから)

 2012年8月22日、酸化チタンナノ粒子の機能的ターゲットとなる脳領域を、遺伝子発現プロファイルから検出した論文が受理されました。

 Umezawa M, Tainaka H, Kawashima N, Shimizu M, Takeda K:
 Effect of fetal exposure to titanium dioxide nanoparticle on brain development - Brain region information.
 Journal of Toxicological Sciences (in press)

 この研究では、酸化チタンナノ粒子を投与した妊娠マウスの産児の脳における発現変動遺伝子が、どの脳領域に関連づけられるものに多いかを検討しました。
 結果として、投与群における発現変動遺伝子が、出生前の時期では線条体関連遺伝子に多かったのに対し、出生後1週以降の時期ではドパミン神経系や前頭葉に関連する遺伝子に多いという経時的変化の特徴が明らかになりました。

 以前の論文(→Shimizu et al. P&FT 6:20)では、アポトーシスや脳発達、酸化ストレスや伝達物質といった大気環境中粒子の生体作用機序として既知の機能用語でのみ遺伝子を分類し、どの機能に関連づけられる遺伝子が多く発現変動したかを検討しました。その結果、酸化ストレスや伝達物質に関連する遺伝子群は、投与後時間が経過してから(出生2週後以降に)発現変動することが分かりました。

 しかし、この遺伝子発現解析はマウスの全脳組織を用いて行っており、酸化チタンナノ粒子のターゲットとなる脳領域についての知見は得られていませんでした。今回受理された論文は、発現解析した遺伝子に脳部位を表すMeSH(←tsvファイル)のみを付与し、この標的脳領域の情報を得たものです。
 本研究により得られた結果が、ナノ材料の生体作用の評価に活用されることを期待しています。

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 ※なお、この研究で用いた方法は、以前に紹介したMeSHを用いたマイクロアレイ解析法(→2009年10月のエントリ)をアレンジしたものです。
 具体的には前述のとおり、遺伝子に脳部位を表すMeSHのみを付与して解析を行いました。この手法は新しいものですが、得られた結果は二酸化チタンナノ粒子の作用についての既報とよく相関しており、十分な検出力があったと言えると考えています。(ただし、その検出力の確証は他テーマの今後の研究データを用いて進めていく予定です。)

 ※MeSHのサブカテゴリーのみを遺伝子アノテーションに用いた機能グループ解析自体は、解析ツールGeneMeshにも実装されています。
 
cf. Jani et al. BMC Bioinformatics 11:166 [PubMed]

 ※酸化チタンナノ粒子の生体作用については、他にも数多くの論文がすでに発表されています。
 
cf.) Reviewed by Iavicoli et al. Toxicological effects of titanium dioxide nanoparticles: a review of in vivo studies. Published in Journal of Nanomaterials.