今週の名古屋での国際シンポジウムNanOEHと、最近の論文準備で使ったり仕入れたりした参考文献を、列挙してみます。
このくらいを踏まえた上で議論はしたいし、関心を持たれる人との考察をどんどん進めたいと思います。ご遠慮なく参考に(なれば…)して頂ければ有難いです。
「関連分野のこの論文も取り上げてくれ!」というリクエストも、是非くださいませ。(検討します。)
※最終更新日: 2013年12月7日
●ナノ粒子の胎児移行と発生毒性(次世代影響)
・Takeda et al., 2009 (J Health Sci)
妊娠中のマウスの皮下に投与した二酸化チタンナノ粒子(500 micro g/mouse)が、子どもの体内に到達し、出生後1.5ヶ月以上は子の脳や生殖器に留まることを、移行した粒子の元素分析(EDX)により証明した論文。
・Yamashita et al., 2011 (Nat Nanotechnol)
妊娠マウス(妊娠16日目=妊娠後期)に二酸化チタンやシリカのナノ粒子を静脈内投与(800 micro g/mouse)すると、その粒子が胎児(胎齢18日)の肝臓にも検出される可能性を示した論文。
・Shimizu et al., 2009 (P&FT)
妊娠中のマウスへの二酸化チタンナノ粒子の皮下投与(400 micro g/mouse)で子の脳に生じる、遺伝子発現変動パターンを解析した論文。脳における神経伝達物質や高次機能に関わる遺伝子群は、出生直前後よりも少し後の出生後3週程度の時期から発現変動した。
・Wick et al., 2010 (EHP)
ナノ粒子の一部は胎盤関門を通過する可能性があることを、組織培養実験系で示した論文。240 nm以下の蛍光標識ポリスチレン粒子が、30%程度胎盤を通過したことを示している。
(※上の2つの論文の解説⇒こちら。)
・Myllynen et al., 2008 (Reprod Toxicol)
上のWickらの論文と逆に、粒子径30 nmのポリエチレングリコール(PEG)被覆金ナノ粒子が、胎盤を通過しないことを示した論文。先の論文と合わせて考えると、粒子の胎盤透過性はサイズだけでは決まらず、粒子(とくに表面)の化学組成にも依存していると考えられる。
・Takahashi & Matsuoka 1981 (J Radiat Res)
粒径5 nmもしくは30 nmの金ナノ粒子を、妊娠(母)ラットに静脈内投与した結果、子の体内に移行した割合は0.02%未満であったことを示した論文。移行割合の結論がWickらの論文と異なる理由の一つは、胎盤に触れる粒子の濃度がまったく異なること、また、粒子の化学組成が異なることの2点にあると思われる。また、急性的に静脈内に投与した後のナノ粒子の分散状態が保証されていないことにも注意が必要である。
・Grafmuller et al., 2013 (J Vis Exp)
生体異物や種々のナノ粒子について、上のWickらと同様のモデルを用いて胎盤透過性を比較解析した論文。
・Fedulov et al., 2008 (AJRCMB)
妊娠マウスへのナノ粒子の経気道投与(炭素=カーボンブラック:250 micro g/mouse、二酸化チタン:50 micro g/mouse)が、新生児のアレルゲン感受性を亢進させることを示した論文。
・Yoshida et al., 2010 (Fertil Steril)
妊娠マウスへの炭素ナノ粒子(カーボンブラック)の経気道投与(200 micro g/mouse)が、子の雄性生殖器機能に及ぼす影響を示した論文。
(成獣期投与の影響については、Yoshida et al., 2009, Int J Androl⇒マウスにカーボンブラックナノ粒子[100 micro g/mouse×10週間かけて10回]を経気道投与した結果を報告している。)
・Takahashi et al, 2010 (J Toxicol Sci)
・Okada et al., 2013 (J Toxicol Sci)
妊娠中のマウスへの二酸化チタンナノ粒子もしくは酸化亜鉛ナノ粒子の皮下投与(500 micro g/mouse)が、子の脳の神経伝達物質(主にドーパミン代謝物)を増加させることを示した論文。
・Umezawa et al., 2012 (J Toxicol Sci)
妊娠中のマウスの皮下に投与した二酸化チタンナノ粒子(400 micro g/mouse)で生じる遺伝子発現変動パターンについて、子の全脳のデータから標的脳領域を抽出した論文。次世代の大脳皮質前頭野や中脳ドーパミン神経系の機能が、二酸化チタンナノ粒子の妊娠期投与の標的となっている可能性を示した。
・Umezawa et al., 2011 (J Toxicol Sci)
妊娠マウスへの炭素ナノ粒子(カーボンブラック)の経気道投与(100 micro g/mouse)が、子の腎臓におけるコラーゲン発現に及ぼす影響を示した論文。
・Lim et al., 2011 (Environ Health Toxicol)
MWCNTの妊娠期曝露による次世代影響についての論文。NOAELが高く、実質的にMWCNTに発生毒性はないと結論づけているが、分散状態はどうか(←フルテキスト未確認・要チェック!)。
・Fujitani et al., 2012 (J Toxicol Sci)
・Philbrook et al., 2011 (Reprod Toxicol)
多層カーボンナノチューブ(>3 mg/kg、腹腔内投与)や水酸化カーボンナノチューブ(10 mg/kg、経口投与)の妊娠期投与による次世代影響。
・Pietroiusti et al., 2011 (ACS Nano)
妊娠マウスに単層カーボンナノチューブを単回投与(妊娠5.5日目=着床直後、100 ng~300 micro g/mouse、投与経路はフルテキストを要チェック!)すると、一部の胎児の発達に影響が認められたことを報告した論文。影響の生じた胎児の胎盤でのみ、活性酸素種(ROS)産生が亢進したことも報告している。
・Hong et al., 2013 (Toxicology)
妊娠マウスに環境中浮遊粒子(PM)を経気道投与(合計約20~1400 micro g/mouse)すると、子マウス(4週齢)の免疫系を司る脾臓や胸腺に影響が生じることを示した論文。
・Ema et al., 2010 (Reprod Toxicol)
ナノマテリアルによる次世代影響(発生毒性)についての総説。
☆デンマーク‐カナダグループ
・Hougaard et al., 2010 (P&FT)
妊娠マウスへの表面修飾二酸化チタンナノ粒子の吸入曝露(42 mg/m3、1.7×10^6/cm3、二次粒子ピーク径97 nm、1時間/日×11日間)による次世代影響を報告。Open field試験での行動パターンに差異が認められた。
・Jackson et al., 2013 (Nanotoxicolgy)
上の論文と同様に、妊娠マウスへの表面修飾二酸化チタンナノ粒子の吸入曝露(42 mg/m3、1.7×10^6/cm3、二次粒子ピーク径97 nm、1時間/日×11日間)による、次世代の肝臓への影響を報告。DNA損傷と遺伝子発現変動をエンドポイントにして評価している。
・Jackson et al., 2012 (Nanotoxicology)
妊娠マウスへの炭素ナノ粒子(カーボンブラック)の経気道投与(妊娠7~18日目に計4回、計11~268 micro g)が、母マウスの肺と子マウスの肝臓(遺伝子発現パターン)に及ぼす影響。母親の肺に惹起される炎症と子の肝臓に生じる影響との関連を考察している。
・Jackson et al., 2011 (Basic Clin Pharmacol Toxicol)
妊娠マウスへの炭素ナノ粒子(カーボンブラック)の経気道投与(妊娠7~18日目に計4回、計11~268 micro g)が、子マウスの行動パターンに及ぼす影響を、Open field試験の結果で報告。
・Jackson et al., 2012 (Mutat Res)
妊娠マウスへの炭素ナノ粒子(カーボンブラック)の経気道投与が母マウスの肺と子マウスの肝臓に及ぼす影響について、投与方法の違い(吸入曝露と気管内投与)による影響の差異を比較。次世代影響の程度の際における雌雄差にも言及している。
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●粒子の吸入曝露による循環器への影響発現メカニズム
・Erdely et al., 2009 (Nano Lett)
マウスへの炭素ナノ粒子(カーボンブラック、カーボンナノチューブ)の単回経気道投与(40 micro g)により、血管内皮細胞のメンテナンスに関わるメディエーターが、呼吸器から血中に放出されることを示した論文。
・Gasser et al., 2012 (P&FT)
肺サーファクタントによるカーボンナノチューブの被覆が、その生体影響を調節することを培養細胞実験系で示した論文。
・Harishchandra et al., 2010 (J R Soc Interface)
吸入して肺胞に到達した粒子が、どのように肺サーファクタントと接して、どのように肺外組織に移行し得るのかについて、肺サーファクタントモデル溶液を用いて明らかにした論文。
☆デンマーク‐カナダグループ
・Saber et al., 2013 (PLoS One)
粒子の吸入曝露による急性反応と、循環器疾患リスクとの関係。
・Bourdon et al., 2012 (Toxicol Sci)
マウスへの炭素ナノ粒子(カーボンブラック)の単回経気道投与(0.018~0.162 mg)が、肝臓における遺伝子発現パターンに及ぼす影響。
・Husain et al., 2013 (TAAP)
マウスに酸化チタンナノ粒子を単回経気道投与(18~162 micro g/mouse)した後、1~28日目の肺組織内の粒子残留(あった)と炎症の持続(なかった)の検討結果、ならびに遺伝子発現プロファイルを報告した論文。
・Saber et al., 2012 (Nanotoxicology)
塗料に用いられているナノ粒子の炎症誘発作用を検証した論文。カーボンブラックナノ粒子の生体影響は投与した粒子の表面積に、二酸化チタンナノ粒子のそれは表面の化学組成に大きく依存すると結論付けている。
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●ナノ粒子の体内動態
・Kreyling et al.; Oberdörster et al., 2002 (J Toxicol Environ Health A)
吸入したナノサイズの粒子(ultrafine particle)の、肺以外の組織への移行について。
・Yang et al., 2007 (EHP)
マウスに単回・静脈内投与したQuantum dot(40 pmol)の体内分布を、ICP-MSにより投与28日後まで定量解析した論文。このデータを基に、投与6ヶ月後までの分布をシミュレーションした結果は⇒Lin et al., 2008 (Environ Sci Technol)。
・Sadauskas et al., 2007 (P&FT)
金ナノ粒子(粒子径40 nm)を静脈内もしくは腹腔内に投与し、1~24時間後の動態を解析した論文。静脈内投与では、<60 micro g/1 mLのコロイド懸濁液を、5分かけて緩徐に注入している。金ナノ粒子の分布評価には、autometallography (AMG)という方法を用いている。この条件では、ナノ粒子は主に肝クッパー細胞に取り込まれ、他には脾臓やリンパ節のマクロファージに認められただけであると述べている。(デンマークグループ)
・Choi et al., 2010 (Nat Biotechnol)
肺に投与したナノ粒子(Quantum dotやポリスチレン-ポリアクリルアミドナノ粒子など)の体内動態を、赤外蛍光によりモニターした研究結果を報告。肺外のリンパ節への移行や腎クリアランスのサイズ依存性を明らかにしている。
・Lamoureux et al., 2010 (J Toxicol Environ Health A)
前述のFedulovらの研究グループの続報の一つ。二酸化チタンのナノ粒子投与により肺で起こる反応のうち、通常の雌マウスでは起こらず妊娠マウスで起こるパスウェイを明らかにし、報告している。(フルテキスト未確認・要チェック!)
・Oberdorster et al., 2005 (EHP)
この分野が注目される出発点の一つとなった総説。
・Nel et al., 2006 (Science)
こちらも重要な総説。
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●ナノ粒子を含むディーゼル排ガスによる次世代影響
・行動学的影響→ Search "prenatal exposure diesel exhaust behavior" in PubMed
議論のための議論ではなく、早く結論に辿り着くための議論ができますように。