日本薬学会誌にナノマテリアル安全性評価のシンポジウム報告

 日本薬学会誌の『薬学雑誌』2013年2月号に、ナノ材料の安全性評価についての薬学会シンポジウム(2012年3月、大阪大学の堤先生と吉岡先生が企画)の報告が掲載されています。

 とくに pp.175-180、「ナノマテリアルの健康影響評価指針の国際動向」と題された広瀬明彦先生(国立衛研)の論文は必見です。
 ここではとくに、欧米の動向が比較されながら紹介されています。

 まず目を引くのは、欧州の食品安全機関(EFSA)と消費者安全科学委員会(SCCS)がそれぞれ出した、食品・飼料と化粧品中のナノマテリアルの「評価ガイダンス(EFSASCCS-PDF)」の解説。
 これを読むと、この指針が想定される複数の曝露シナリオを明文化しており、曝露量の推定(曝露評価)をしやすくしていることがよく分かります。曝露シナリオの分類は、これと毒性評価のデータとを組み合わせたリスク評価を進める上で重要なポイントです。
 これらの指針のように曝露シナリオの分類基準を明快にすることは、ナノ物質という新規材料のリスク評価の実現を促す点で、とても有意義であると思います。

 「曝露シナリオを区別すること」ことの重要性は、私もこのブログや岩波『科学』記事上に書かせて頂きました。よろしければ参考にしてください。

 →ナノ粒子の生体影響評価・生殖発生毒性評価の問題点(2012年3月30日)
 →岩波『科学』10月号に「ナノ材料による次世代健康影響とリスク管理への課題」(2012年10月4日)

 また、広瀬先生の論文では、米国の場合「(使用する材料ではなく)製品ベースで許認可を行うケースが多く」、安全性評価についても、「個別申請で対応するという傾向」があることに言及されています。
 これは、個々の製品について評価が必要になりコストが高くなり得る一方で、材料としては応用が容易でなくても管理の下での製品化が可能になり得ると考えられ、興味深い特徴でしょう。

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 同号では、吉岡靖雄先生の論文「ナノマテリアルの安全性評価と安全なナノマテリアルの開発支援~ナノ安全科学研究の現状と今後」(pp.169-174)も掲載されており、大阪大学を中心としたナノ材料のハザード(有害性)研究の成果が要約されています。

 ①ナノ材料 "nSP70" の高用量投与が一般毒性解析における顕著な生体影響を認めなかった
(Nabeshi et al. Biomaterials 2011)ことから「より長期(曝露)の検討などを実施する必要がある」
 ②「非晶質ナノシリカは、従来型(サブミクロン)非晶質シリカと全身循環した際の体内局在が全く異なる」
(Nabeshi et al. Biomaterials 2011)
 ③「安全性に懸念のあるもの(ナノ材料)に関しても、適切な表面修飾を施すことにより、安全性を担保できる可能性」がある
(Nabeshi et al. Nanoscale Res Lett 2011)
 ④妊娠動物への高用量のナノ材料投与による次世代影響は、胎盤機能不全に伴うIUGR(子宮内胎児発育遅延)が影響発現機序として重要である
(Yamashita et al. 2011)

 今年(2013年)3月の薬学会でも、堤先生と吉岡先生が企画されたシンポジウムがあるので、楽しみに参加したいと思います。