2016年6月1~4日、米国・ボストンで開催された国際会議Nanotoxicologyに参加してきました。現代で使われる安全なナノマテリアルの使用 (safer use of nanomaterial) のために、毒性データをどうpolicy makingスキームに乗せるかという議論が、前回まで以上に多く活発だったように感じます。1年半前に感じた手詰まり感とはだいぶ違った印象。
毒性学的知見の活用について、今回の学会で強調されていたと感じたのは次の5点です。
①有用なナノマテリアルが新たにどう見出されているか
(How are emerging beneficial nanomaterials (NMs) created?)
②毒性発現メカニズムを包括的に明らかにするにはどんな研究が必要か
(What's needed for clarifying adverse outcome pathways to achieve safer use of NMs?)
③胎児/次世代への影響はどこまで分かっているか
(How NMs impact on the maternal-fetal interface and prenatal development?)
④ナノマテリアルの曝露量をどの基準/単位で表すか
(What's better dosimetry for nano-regulation?)
⑤実社会においてヒトに対するnanotoxicologyはどんな形で起こり得るのか
(What's human nanotoxicology in the real world?)
それぞれ書いておきたいことは多々あるのですが、ここでは①の中のカーボン材料(カーボンナノチューブ、グラフェン)について、へー、ほー、と思ったことを書いておきたいと思います。
●Moore TL et al. (2013)
Multifunctional polymer-coated carbon nanotubes for safe drug delivery
Part & Part System Characterization 30(4): 365-73
Drug delivery(薬物送達)応用が期待されるカーボンナノチューブ(CNT)の毒性が、ポリマー(PLA-PEG)によって抑えられるって。
●Moore TL et al. (2014)
Systemic administration of polymer-coated nano-graphene to deliver drugs to glioblastoma
Part & Part System Characterization 31(8): 886-94
PLA-PEGで修飾したグラフェンは内包した薬物(paclitaxel)を19日間保持し、ゆっくりと放出するほか、これを脳のglioblastomaモデルにも送達できるんじゃないかっていう話。
●Sengupta B et al. (2015)
Influence of carbon nanomaterial defects on the formation of protein corona
RSC Adv 5: 82395-402
カーボンナノマテリアル(CNT)とタンパク質との吸着に、π-π相互作用が重要であるという話など。
●Wong MH & Strano MS et al. (2016) @MIT
Lipid exchange envelope penetration (LEEP) of nanoparticles for plant engineering: A universal localization mechanism
Nano Lett 16: 1161-72
CNTなどナノ粒子と脂質生体膜との相互作用が、ナノ粒子の細胞取り込み・細胞内分布に重要であるという話。この理論で、どんなゼータ電位を持つ粒子でも細胞内に入り得ない粒子の大きさを予測できるという。(あとで本文読む。)
●Kim JH & Strano MS et al. (2009) @MIT
The rational design of nitric oxide selectivity in single-walled carbon nanotube near-infrared fluorescence sensors for biological detection
Nat Chem 1: 473-81
CNTの3,4-diaminophenyl-functionalized dextran (DAP-dex)修飾によるNOセンサーの開発。
●Zhang J & Strano MS et al. (2013) @MIT
Molecular recognition using corona phase complexes made of synthetic polymers adsorbed on carbon nanotubes
Nat Nanotechnol 8: 959-68
CNTのポリマー修飾による生体分子トラッキングセンサーの開発。
●Kruss S & Strano M et al. (2014) @MIT
Neurotransmitter detection using corona phase molecular recognition on fluorescent SWCNT sensors
JACS 136: 713-24
CNTのポリマー修飾による高感度ドーパミン検出センサーの開発。
●Bisker G & Strano M et al. (2016) @MIT
Protein-targeted corona phase molecular recognition
Nat Commun 7: 10241
CNTのポリマー修飾による生体高分子(フィブリノーゲン)センサーの開発。
●Liu R et al. (2015)
Prediction of nanoparticles-cell association based on corona proteins and physicochemical properties
Nanoscale 7: 9664-75
ナノ粒子によるprotein corona形成と細胞との相互作用を予測するQSAR(定量的構造活性相関)とか、去年発表されていたらしい。
いくつか上に「@MIT」と書きましたが、最近の研究でイメージしていたことと同様のことを、MITのグループが進めていることを学会で見つけました。MITのように、思いついたことを網羅的検証・スクリーニングできる環境が整った研究機関がある中で、自分が勝ち続けるための戦略を見直す機会になりました。
MIT、ここですね。
今回のボストン最後の夕食をいただいたのは、Park Plaza Hotel。前は、夜に豪奢な雰囲気になる通りでした。ここのクラムチャウダーはややスパイスの効いた独特の味。オイスターは、美味しかったけどちょっと塩辛かったかな。
ボストンでは昼夜逆転の時差(日本-13時間)に若干のツラさを感じながらも、疲れでベッドに吸い込まれるように毎晩眠りに就けました。ここから元気に帰れるのは、クラムチャウダーのおかげと言っても過言ではないかと。
今回は毎日曇りがちだったボストンでしたが、最後は晴れ。今、ボストンから成田に向かっています。ここを直行便で行き来できるようになったのは、とにかくラクでありがたいこと。日本時間での朝3時半(離陸直後)~7時まで眠って体調万全、時差ボケなしで帰国できそうです。