【御礼と報告】2014.9.6 シンポジウム「PM2.5とナノ粒子 ―微小粒子の健康影響とその対策を考える―」

 2014年9月6日、日本学術会議トキシコロジー分科会シンポジウム「PM2.5とナノ粒子 ―微小粒子の健康影響とその対策を考える―」を開催しました。標題のテーマについて、シンポジウムを企画しながら考えてきたこと、当日感じたことを書いてみたいと思います。

 一般大気環境の問題としては、PM2.5と、その中でも特に小さい超微小粒子(ultrafine particle=UFP)。それは(その大きさが原因で)細胞に取り込まれやすい一方で、細胞外/体外へのクリアランスを受けにくいことから、特徴的な毒性を示すと考えられています。少なくとも、そういう性質を持つものがあります。
 一方で、同様のサイズを持ち産業の場で使われる「ナノマテリアル」について、そのリスク評価が進められています。

●「PM2.5」「ナノ粒子」という括りで十分か
 健康影響を考えるべきは「どんなナノ粒子」なのでしょうか? リスク回避のために、「PM2.5」「ナノ粒子」という括りで十分なのでしょうか?

 十分でないという指摘はあるものの、それに代わる効果的な括りはどんなものか。その答えはまだ出ていません。(ここ5年ほどの間には、ひとまず答えが出されると思いますが。)
 これは、いまナノ製品を扱う業界で問題となっている「ナノ表示」の是非につながります。消費者製品へのどのような表示が、リスク回避に効果的なのでしょうか。私は、ナノマテリアルを含むすべての製品に「ナノ表示」をすることが、効果的な策であるとは思いません。それは、ひと口に「ナノ粒子」「ナノマテリアル」と言っても、その性質が様々であるためです。

 そのために、他では毒性の強さを順位付けする試みも進められています。毒性の強いナノマテリアルを含む場合にのみ、「ナノ表示」をするという方針も有効かもしれません。もちろんこのとき、どこで表示の有無のラインを引くが問題になりますが。この点、経産省主導のNEDOプロジェクト(~2015年度)において、ナノ材料有害性の同等性に関する判断基準の開発研究が進められているとのこと。あと1年半、どこまで効果的な結論が出るのか。

 大気汚染物質としての「PM2.5」も、今はサイズで監視・リスク管理のライン引きがなされています。が、PM2.5も化学的組成は様々です。PM2.5を構成する化学的組成(成分)とリスクとの相関関係が明らかになれば、現行とは違った形でのリスク管理がなされることが、今後あるかもしれません。

●では、環境中濃度をどの程度以下にすればいいのか?
 PM2.5の環境基準やナノマテリアルの許容曝露量は、どのように評価し見直されればいいのでしょうか? 私たちは、それらの曝露が次世代に及ぼす影響を検証しています。この「次世代影響」など高感受性集団への影響は考慮すべきなのか、もしくは考慮できるのでしょうか?

 私がこんなエントリを書いたのは2年半前、2012年3月です。⇒ナノ粒子の生体影響評価・生殖発生毒性評価の問題点

 次世代影響をリスク評価に乗せられるよう、私たちは粒子ごとのハザード評価指標が必要と考え、研究を進めてきました。最近、その指標になり得る項目を捉えた以上、その毒性学的意義、メカニズム解明、評価手法の簡易化とあわせて、許容曝露量の再検討が求められると理解しています。

 対策の効果とコストをどう考えるか。取り返しのつかない有害事象をいかにして抑えるか。以上、シンポジウムで感じたことをざっくばらんに書いてみましたが、ちゃんとした開催報告も、他の然るべき所にできると思います。

 当日、議論をし尽くすには時間が足りず申し訳ない気持ちもありました。しかし、「少ない時間で最大の効果を持ち帰ってもらうこと」を目指しましたので、お赦しいただければと思います。
 ご来場くださった皆様、講演者・座長の皆様、開催にご協力いただきましたすべての皆様に御礼申し上げます。

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 当日朝、日本学術会議講堂の前にて。


 2014年7月に理科大で開いたセミナーでは、こんな課題のリストも示していました。詳細はまた、別の機会に。