ナノ粒子、ナノテクノロジーの "Safe-by-Design"

 ナノメディシンの研究をもっとしたいと思う。新奇なナノ粒子をどうしたらもっと安全に有効活用できるかのかを知りたい。と思う。
 ナノ粒子はいろいろな疾病の診断や治療に使われるだろうと期待されているが (Choi & Frangioni 2010)(*1)、臨床で安全に使うには、とにかくよく分かってない生体との相互作用を、体内動態についても毒性にしても、いろんなナノ粒子について明らかにしなくっちゃねと言われてる。


●Choi & Frangioni: Nanoparticles for biomedical imaging: fundamentals of clinical translation. Mol Imaging 9: 291-310 (2010)

 先週のある朝も起きた直後に、ナノテクやその材料“ナノマテリアル”(ナノ粒子)のより安全な活用を目指す欧州の機関から、"safer by design" について目に留まる情報が入ってきた。

●"The 'safe-by-design' concept: Rather than testing the safety of nanomaterials after they are put on the market, ..." @EurosafeLimited in Tw.

 元記事はこれ。

The Future of Nanotechnology(European Union Observatory for Nanomaterials、記事公開日は不明)

 要は安全なナノ粒子のデザインは、市場に出た後の安全性評価の話でなく、新しいナノ粒子を開発していく "innovation stage" から考慮されるべきだということ。
 産業応用を目指すナノ粒子の第一世代は、とにかく材料のナノ化で新奇なものが得られた。第二世代ではバイオメディカル応用を目指し、タンパク質による表面修飾とかでナノ粒子の機能化が試みられてきた。現在のナノテク研究はその次のステージだということも書かれてる。

 "Safe-by-Design" の記事を見て真っ先に思い出したのは、「それ自体は新しいものでなく、産業/工業会 (industry) で常に扱われてきた概念」だという話。誰が話していたのかは思い出せないのが、ウェブを検索するとSustainable Nanotechnology Organization (SNO) という機関のウェブドメイン中にある "NANoREG's Safe-by-Design Concept for Nanomaterials" というスライド資料の中に、その言葉を見ることができる。


NANoREG's Safe-by-Design Concept for Nanomaterials(by C. Micheletti、発表/公開時期不明)
 5ページ目に "Safe-by-design (SbD) is not new, the method has been used for years by the industry, ..." の文言がある。

 実際に、ニュージーランド政府が管理しているらしいWorksafe(労働安全)というウェブサイトの中には "Health and safety by design: an introduction" というページがあり、ここでは健康と安全のための制度設計って何よという話から、ケーススタディ(実装例)までの説明が紹介されてたりする。

Health and safety by design: an introduction(2018年10月中旬現在、最終更新日2018年8月14日)
Worksafe(@ニュージーランド政府)

 なお、初めのNANoREGプロジェクトは2017年2月末に一度終わっており、現在は2015年末にスタートしたNanoReg2が進行している様子。まだ新しく、かつ広汎な分野や業界を変えつつあるナノテクの安全性確保のための取り組みは、欧州を中心にこうして継続的に行われているという状況だ。

NANoREG(~2017年2月28日)
NanoReg2(2015年末~)
Safe by Design in NanoReg2(公開時期不明)

 ところで、これを探しながらSafe-by-Designをテーマにした論文をいくつか見つけたのだが、それがNanoethicsという学術誌に掲載されているのを見つけ、このトピックスがいま倫理の問題としても議論され、扱われていることを知った。

Making Nanomaterials Safer by Design? (Schwarz-Plaschg et al., NanoEthics 11: 277-281, 2017)
Safe-by-Design: from Safety to Responsibility (van de Poel & Robaey, NanoEthics 11: 297-306, 2017)

 この二つの論文は同じ号(2017年12月)に載っているが、このジャーナルの他の号にはブックレビュー "Ethics in Technology: a Philosophical Study" なんかも載っている。その流れの中でナノ粒子やナノテクの安全設計が議論されているのは、当然と言えば当然だけれど、重要だし興味深いことだと思う。

 ナノ粒子のSafe-by-Designのケーススタディもいくつかあるのだと思うけれど、例えばこの学会プロシーディングスは、カーボンナノチューブ生産におけるsafe-by-designのアプローチが論じられている。

Implementation of a safe-by-design approach in the development of new open pilot lines for the manufacture of carbon nanotube-based nano-enabled products (López et al. J Phys Conf Ser 838: 012018 (2017)

 一方で、薬学という「物質と生体との相互作用」を研究の軸に持つ自分から考えられる "design" は、やはりナノ粒子、つまり材料側の設計とその相互作用メカニズムの検証だ(*2)。来月フランスのグルノーブルである隔年開催の会議では、私もそのまさに "Safe-by-design nanomaterials and process" のセッションで、口頭プレゼンを一席ぶってくることになっている(*0)。
 この会議に参加するのは、前回の2014年11月以来4年ぶり2回目だけれど、今回は、自身で一昨年から取り組んできた新しい研究の一つを紹介する予定。この内容を、国際会議での口頭プレゼンの場で話せるところまで来るのに2年半かかってしまった。それでもその研究の面白さと、自分だから見て分かったと思う成果を紹介したい。

Nanosafe 2018 Programme(2018年11月5~9日予定)

 ・・・とか思っているのだけれど、その前に片付けておきたい仕事も多々あり、正直必死なだけだったりする。踏ん張りどころで、走りどころである。


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 後日追記: プログラムの修正があり、私の話すセッションが "Safe use of nano objects for medicine applications" に変更になりました(写真の "2")。デンマークでお世話になっているUllaさんの直後にしゃべることに。
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 下の写真はその4年前の滞在中に、朝走りながら見て撮った景色。また行く前に久しぶりにその写真を見て、気力の少し充電してみたところ。




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 (*1)ナノ粒子の医療応用というと、イメージング造影剤として診断に使ったり薬を目的の場所に送るDDS(薬物送達システム)として応用したりしようとする例が有名だが、もう一つナノワクチン (Nanovaccine) というものがある。これについては例えば、一つの製剤から複数のワクチンをそれぞれ複数の場所に送り、一回の接種で複数の疾病への免疫を獲得させるという試みなどが行われているらしい。
 (参考) "How we can tackle social issues with nanotechnology"(Nano-Magazine、2018年9月12日)

 (*2)マテリアル側の安全性/毒性の検証はSafe-by-Designの重要な要素の一つである。2018年10月にOptiNanoProというグループが出している "Safer-by-Design Protocol" では、セクション2.2.2の "Material Safety" に全32ページ中11ページ (pp.12-22) が割かれて記述されているほか、セクション3.3にも "Material Toxicity" について2ページの記載 (pp.29-31) がある。