Nova Publishers "PM2.5本" 発刊と執筆章の公開

 『PM2.5: Role of oxidative stress in health effects and prevention strategy』(健康影響における酸化ストレスの寄与と予防戦略)という書籍、2015年7月14日に発刊されました。こちら
 ⇒こちら(2018年秋にHPがリニューアルされ、古いURLからではアクセスできなくなった様子。)

 この本の共同編集の話を日本医大の李英姫先生からいただいたのは、2014年の夏の初めのことでした。出版社は米国のNova Science Publishers。これまで、この出版社から出る書籍の小さな章の執筆依頼を受けたことはありましたが、今回は初めての共同編集。話を頂いてから各章の要旨(Abstract)の期限までがわずか1ヶ月でしたが、中国出身の李先生の、良い本を母国に届けたいという想いにも応えるべく、出た考えを行動に移して企画を進めました。

 限られた時間の中、ご多用中にも関わらず私の依頼に有難い協力をくださったのが、

・東賢一先生、内山巌雄先生
  PM2.5の疫学と環境基準・WHO指針
・早川和一先生、鳥羽陽先生ら
  PM2.5中の多環芳香族炭化水素
・藤谷雄二先生、古山昭子先生、平野靖史郎先生
  ナノ粒子の健康影響
・小島周二先生、月本光俊先生
  ナノ粒子曝露とATP受容体シグナル

 さらに大原利眞先生(東アジアでの状況)、潘小川先生(北京大学公衆衛生学院、中国での状況)のほか、日本医科大・杏林大・順天堂大・東京大の医学系研究者から多くの臨床からの知見についての原稿を頂き、本書が完成しました。



 うちのラボでは、大学院生の小野田淳人さんも "The potential protective effect of antioxidants on nanoparticle toxicity"(抗酸化物質によるナノ粒子の毒性抑制効果)というタイトルで、気合いの入った総説を書いてくれた他、私自身も "Findings regarding the hazard assessment of nanoparticles and their effects on the next generation"(ナノ粒子の次世代影響)と、最後に難波美帆さんと共著で "Fine and ultrafine particle risk management: Problems to be solved"(微小粒子のリスク管理に向けて、解決すべき問題)という章を書きました。

 この最終章(Chapter 17)は、この本の編集・執筆の機会がなければ書けなかったと思います。様々な意見交換の場で感じてきたことを集め、「なぜ今、取り組むべきがナノ粒子なのか?」「で、この問題にどう相対すれば良いのか?」という問いに対する今できる限りの答えを、以下の内容の流れで書いてまとめました。

 1) Definition of the intended targets of nano-regulation
 2) Re-considering the mechanism of nanoparticle-induced toxicity for its regulation
 3) Establishing a method for assessment of adverse effect level
 4) Developing a highly sensitive and quantitative detection technology for nanomaterials
 5) Distinguishing exposure scenarios for each type of nanoparticle
 6) Are nanoparticles "unknown encounters"?
 7) Securing the indendence of risk managers
 8) Development of risk communication patterns to reduce communicator anxiety – A workshop study

 容易には “見えない” が環境中に広範に存在するナノ粒子と、その潜在的な健康影響の可能性の問題は、関連分野の研究者が目の前のデータとどう向き合い、考察した内容をどう表現していくのか、という課題を孕んでいると思います。この課題が私の個人的な悩みでないと思わせた論文には、"Ethical and scientific issues of nanotechnology in the workplace" という2007年に発表されたものがあります。

Ethical and scientific issues of nanotechnology in the workplace
(by Schulte and Salamanca-Buentello, Environ Health Pespect 115: 5-12, 2007)

 そんな課題の一部でも解決するヒントに、私の書いたChapter 17がなり得ることがあれば良いなぁと願いつつ、ここにお知らせします。

 李先生や私が著者になっている第13, 15, 16章とこの第17章は、PDF版で無料公開(Open access)になっています。少しずつでもいろんな人に読んで頂き、また少しずつ色々な意見を頂ければと著者・共同編集者として願ってるところです。

●公開の章のPDF版は、こちら。⇒冒頭リンク先の中ほど下「Table of Contents」タブからいただけます。



日本医科大学「トピックス」でも紹介されました。
 PM2.5:健康影響における酸化ストレス作用および予防戦略/李英姫、川田智之(衛生学公衆衛生学分野)共同編集