体温の「コア・シェル」と冷え症のいろいろ

 モノの表面と中身で性質の違うことを表す言葉に、「コア・シェル (core-shell)」という語があります。工学分野で言うと原子の並びを超微細なスケールで制御して、ごくごく小さいモノでも表面と内部に機能の違うものを並べたものを作ることがあったり、私たちの足元の地球の構造もばっちりコア・シェルだったりします。


 ※出典:Ximendes et al., Nano Lett. 16:1695, 2016
 ※「nm」がナノメートル。1nmは1mmの百万分の一で、大きさとして原子10個以下のレベル。


 ※気象庁HP「地震が起こるのはなぜ? ‐プレートテクトニクス‐」より
 ※上2つの絵は似たような構造が描かれていますが、実際の直径は上のものが5nm、下のものが12700kmなので、ざっと2500兆倍違います。

 そう思っていたら、足元の地球どころか私たちの体自体も、ばっちりコア・シェルでした。出典はこちら。

誤情報多い「冷え」と「温め」、他で聴けない話(m3.com、2018.3)

 残念ながらこのページは、会員登録していないと読めないのですが、画像だけならGoogle検索で見ることができるようです。↓↓

「体温分布 core shell」でGoogle画像検索

 考えてみれば、「皮膚」は体の表面にだけあって中にはないので、体の表と中とは構造も性質も違います。そしてこの体温の話は、もっと簡単に「温度」一つをとっても、表面と内部とで違うという話です。しかも、体の表面と内部での温度がどう分布しているかが、冷え症の原因や対処法を考える上でも大切だということ。コア・シェルの考え方は、体温を理解する上でも面白いと気づかされます。

 冷え症のタイプと対処法については、上の「冷え」と「温め」の記事の続き、「『ショウガで体が温まる』はまやかし」のm3.com記事(こちらも会員のみ閲覧可能)に説明があります。そこにある図はこんな感じ。

「ショウガ まやかし 冷え症のタイプと熱量」でGoogle画像検索

 要は、ひと口に冷えと言っても熱産生(発熱)が足りないためになるだけとは限らず、熱の産生と放散(どれだけ発熱しているか、どれだけ逃がしているか)のバランスによっていくつかのタイプがあるということ。そしてそのタイプが違えば、冷えを改善するための対策も変わってくるのです。

 例えば、体全体での熱産生は十分でも血行が悪いと、熱放散の大きい脚に熱が届かずに下半身が冷えてしまうとか(下半身型)、血行改善が有効な対策になるとか。
 熱産生が不十分で冷え症になっている場合もタイプが一つでなく、熱放散が少ないか多いかにより「手足の末端だけが極端に冷えているのか」(四肢末端型)と「内臓まで冷えているのか」(内臓型)にタイプが分かれ、後者の場合は食事量や運動量を増やすだけでなく、保温もしないと冷えが改善しないとか。

 つまりは、「冷え」の原因は一つでなく、

①熱産生(基礎代謝)の低下 →食事や運動の量を増やそう
②温度調節(主に血行)障害 →血行を改善しよう
③放熱過多(皮下脂肪の不足)→保温しよう

 ということのようです。

 こうしてみると、体の「コア・シェル」での温度分布の違いも人それぞれであれば、熱の産生と放散の多少も人それぞれなのだという理解が深まります。そしてこの事実からは冷えのタイプだけでなく、そもそも人がそれぞれ快適だと思う気温の違いにも関わっているのだろう、ということも想像できます。

 例えば私は、多くの人より平熱が0.5~1℃ほど高いのですが、涼しい日には他の人より薄着であることが多く「寒くないの?」と訊かれることがしばしばあります。が、そういうときは大概、寒いと感じていないんですね。
 もちろんそのときにも、空気がひんやりしているのは感じていて、体表面の温度は気温に合わせて下がってもいます。しかし、そのすぐ内側は簡単には冷えないという実感があるのです。それはどうやら熱産生が多く、加えて温度の調節(血行)も活発な状態と言えるのかなという状態であるようです。

 この、体温調節の状況が人によってどう違い得るのかという話。それが理解されていなくても、大人の私は構いません。しかし、大人の指示を受ける場面のある子どもだとそうはいきません。例えば、その子が簡単に体の冷えない性質であった場合に、外が涼しいという理由だけでむやみに厚着させられるということがあると、本人が不必要な暑苦しさを感じたり、体温調節がかえってうまくできなくなったりることも起こるでしょう。

 というわけで、「体温もコア・シェル」の話を聞いて考えた私の結論は3つ。

 ①体温調節機能も人それぞれ。
 ②自分(大人)の感覚を子どもに押し付けることなく、子ども自身の感覚を聞こう。
 ③「季節柄ご自愛ください」を自分にもな。

 なお、体の発熱というと熱を持つ病気や発作が起こるメカニズムにも、いくつかのタイプがあります。それも、体の中の各器官が相互作用するさまが分かり面白いものがあるのですが、そちらはまた別の機会に。