磁性や惑星の磁場のはなし

 研究のサブワークで磁性について理解する必要があり、ついでにひと通り調べてみた。

 「磁性(magnetism)」とは、物質が磁場に反応して、他の物質に対して引力(attraction)や斥力(repulsion)を及ぼす性質のことだ。この磁場を生み出すものが磁石(magnet)。「磁場」は磁石によって生み出される雰囲気のことを言うので、英語ではmagnetic fieldになる。

 磁性は電子の軌道運動やスピンによって生じ、これにより大きな磁気モーメント、すなわち強い磁力を発揮する物質を強磁性体(ferromagnetics)と言うんですね。室温では鉄、コバルト、ニッケル、ガドリニウム(18°C以下)がこれにあたる。強磁性体はそれ自体が持続的に磁場を生み出しもする。
 磁場に応答して引き付けられる物質の性質を常磁性(paramagnetic)、逆に反発するものの性質を反磁性(diamagnetic)と言うらしい。常磁性体は、外部磁場のない環境下では熱によるゆらぎで電子スピンが揃わず、磁場を発生しないが、磁場をかけるとそれに応答して電子スピンが揃うために磁性を持つようになる。

 ここまでで分かることは、スピンが揃っているとその物体が磁性を持つようになるということ。なので、その物体の温度を上げて、スピンにその向きの縛りから解放するのに十分なエネルギーを与えると、スピンがバラバラになり物体から磁性が失われる。つまり、温度が高いほど止まっている物体の磁力は弱くなる。というわけで一般的に、強磁性体でも高温になると熱によるゆらぎが大きくなり、自発的に磁場を生み出す性質を失い常磁性体となるとのことだ。なるほど。


 岩石中の金属も、高温下では磁性を失う。そのために、昔噴出した岩石の磁性を調べると、その時代の地磁気の状態が分かるという話。(「地球を探るサイエンス」@上野・国立科学博物館

磁性(Wikipedia)
強磁性(Wikipedia)

 余談:

 上野の国立科博を夕方出たら、地球照で全体のぼんやり光った三日月が見えていました。この月、およそ10日後(2018年1月31日)には皆既月食になりますよー。

 さて、上で登場したガドリニウム(64Gd)という元素が強磁性を示すのは、最大14個の電子が入る4f軌道にちょうど半分にあたる7個の電子が入っており、7つの不対電子を持つことによるとのこと。Gdの電子配置は [Xe] 4f^7 5d^1 6s^2。そのイオンであるGd^(3+)も、安定な球対称の電子配置 [Xe] 4f^7 をとるために磁性を示す。
 電子軌道は各々、1個あるいはスピンの向きが反対の2個の電子を入れることができ、4f軌道には電子を2つまで入れられる軌道7組から成っている。電子2つが一つに組に入るときには、各電子のスピンが逆になり互いに打ち消しあうために、外部から見て磁性が起こらない。一方で、不対電子が多くそれらがすべて同じ方向のスピンを持てる場合に、強い磁性が生まれるというわけなんですね。

 鉄(26Fe)の場合は電子配置は [Ar] 3d^6 4s^2 で、最大10個の電子が入る3d軌道に4つの不対電子が入ることが磁性の源。鉄イオンFe(3+)も電子配置が [Ar] 3d^5 と、3d軌道に5つの不対電子を持つことにより強い磁性を示す。コバルト(27Co)とニッケル(28Ni)も、それぞれ電子配置が [Ar] 3d^7 4s^2、[Ar] 3d^8 4s^2 と、3d軌道に存在するそれぞれ3つ、2つの不対電子が磁性をもたらす。

"スピン磁気モーメント"(ネオマグ株式会社)

 ただし、磁性の強さは不対電子の数や割合だけでは説明できないようで、近隣原子との相互作用(交換相互作用)や外殻電子の存在などの兼ね合いで決まるとのこと。例として、マンガン 25Mnの電子配置は [Ar] 3d^5 4s^2 だが、これは強磁性物質ではないとか。ふーん(わからん)。
 なお、電子だけでなく原子核もスピンを持っている。この核スピン準位間の遷移を電磁場の吸収により捉える分析技術が核磁気共鳴(NMR)。

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 さて、ここまで磁性と電子との関係を微視的に書いてみたけど、そもそも磁性は基本的に電荷の運動によって起こる性質であり、電流が流れれば必ず磁場が生まれる(電磁気 electromagnet)。地球の方角が磁石の向きで分かるように、地球自体が大きな磁石として磁場を生み出しているのは、地球深くのコアにある鉄やニッケルから成る液体金属が地球内部で対流し、磁場を生む電流となっているからであると考えられてる(ダイナモ理論)。
 巨大ガス惑星である木星土星では、岩石惑星である地球と異なり、内部で大きな重力により保たれている「金属水素(metallic hydrogen)」の対流が磁場を生んでいると考えられている。水素が巨大な重力によって圧縮され、電子が陽子に捕捉されず自由電子となることで金属に・・・ すごい世界だな。


 木星の内部の図(「進化する宇宙」@茨城県自然博物館)
 太陽系ができたときに木星の周りにもう少し多く物質が集まって、この内部の水素が強く圧縮されたら核融合を起こして、太陽のような恒星になっていただろうっていう話がありますね。そうなっていたら太陽は連星になり、他の惑星はどうなっていたことやら。

 地球では磁場の軸が自転軸(axis of rotation)に近いために、磁石を使うとおおよそ方角が分かるわけだが、惑星の磁場の軸は必ずしも自転軸に近いというわけではないようだ。
 例えば、天王星の磁軸は自転軸から大きくずれ、さらに惑星の中心自体も通っていないことが、ボイジャー2号の観測結果から報告されている。天王星については、ボイジャー2号が接近して観測したのは1986年ともう30年以上前だということとか、磁軸だけでなく自転軸がそもそも公転軌道面(orbital plane)から98°傾いているとか、いろいろすごいとしか言いようがないけれど。

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 で、今回元々は、物質の磁性ってどうやって測るのかを知りたくて始めたのでした。磁性を測定する機器は、この意をそのまま英語にした名前でMPMS (magnetic property measurement system)と呼ばれるらしい。
 この測定は簡単に言うと、試料を無磁場中で液体ヘリウムにより超低温(10 K=-263°Cくらい)まで冷やした後に磁場をかけて磁化させ、この試料の温度を徐々に上げていったときの磁性の変化を記録するというものだ。この測定モードを、"磁場なしで試料を冷やす" という意味からZFC (zero field cooling)という。
 ZFCでは試料の磁性が、温度を上げていく過程で徐々に増してくる。これは、昇温により試料中のスピンが動けるようになると、磁場の影響を受けて徐々に揃ってくるためだ。しかし、温度上昇に伴う磁場中での試料の磁性の増大は、ある温度を超えるとなくなる。これは熱によるスピンのゆらぎが磁場による拘束よりも大きくなるためである。この温度依存的な磁性の増大がなくなる温度がブロッキング温度だ。

 ※この論文にある1つ目の図が分かりやすい。
 ⇒Mandel et al. "Stabilisation effects of superparamagnetic nanoparticles on clustering in nanocomposite microparticles and on magnetic behaviour" (2013)

 一方で、試料を冷却する前に強磁場をかけ、その磁場の中で試料を高温(300 K=27°C)から超低温まで冷やしながら磁性の変化を測定するFC (field cooling)というモードもある。ZFCやFCで、温度変化に対する試料の磁気モーメントの変化率がどう変わるかを見ることで、その物質が強磁性/反強磁性常磁性の変化を伴う相転移を起こす温度を知ることができる。
 なお、「反強磁性(antiferromagnetic)」というのは、隣り合う電子スピンがそれぞれ反対方向を向いて整列し、全体として磁気モーメントを持たない物質の性質を指して言う言葉であり、反磁性と全然違う現象を指すとのころ。なんてこった。

 また、磁性体は一度磁場の中におかれるとそれ自体が磁石になることがある(磁化)。たしかに。
 ある物質がどれだけ磁力を保持できるかということは、その物質に強い磁場をかけた後にその磁場を弱め、さらに逆方向の磁場をかけてそれを弱め、と磁場をサイクルさせたときの物質の磁性を分析することで分かる。このとき物質に磁場が保持されることを、磁力のヒステリシス(hysteresis)というそうだ。

ヒステリシス(Wikipedia)

 久しぶりに、スチールのクリップを磁石でこすって磁化の現象を見てみようと思う。

 それにしても、研究のサブワークに限らず小さい人たちの「なんで~~~?」に答え切るには、物理やら材料やら電子やらの理解が必要になることを感じる毎日です。それは考えすぎではないんだろうと思います、たぶんね。


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 ●2019年5月追記
 Magnetic structures based around ferromagnetic spin spirals have been the topic of intense study over the past decade. The discovery of spin spirals that arise from antiferromagnetic order broadens the horizons for magnetic possibilities... from Tw @ILLGrenoble
 News & Views: "
Antiferromagnetism with a twist" @Nature Physics(2019年4月29日)