イルミネーションの横で光の不思議と向き合う@12月のつくばエキスポセンター

 首都圏にいると一年は、初日の出で明けてイルミネーションで暮れるように見えます。クリスマスが過ぎるとやや少なくはなりますが、今年末も随所で見られたイルミネーション。そこで様々な色の光が見られる横で、つくばでは光の実験ショーも見る機会がありました。


 場所はつくばエキスポセンター。

 このエキスポセンター館内で「光の七変化」と題して、炎色反応や偏光、分光を駆使して光で魅せるショーが行われていたのです。(2018年は12月1, 2, 15, 16日)

 まず一つ目、炎色反応というと中学・高校での理科/化学の教科書に書いてあることでしょ、と思う人がほとんどかもしれません。リアカーなきK村・・・という語呂合わせ(*1) の出てくるアレですね。


 ↑ 「炎色反応」(自宅で学ぶ高校化学、2015年7月24日)から。

 この発色(発光)現象、要は熱で励起された電子が安定な基底状態に戻るのに、エネルギーを放出するときに出る光が見えていることにより起こります。ここで、原子の中で電子が蓄えるエネルギーはどんな大きさにもなり得るわけではなく、電子の属する原子や分子によって特定の大きさになります。

 励起されてエネルギーを蓄えた電子はその大きさのエネルギーを発することになるので、その大きさに対応した波長の光を発するのです。具体的には、そのエネルギーの大きさと光の波長との関係は反比例の関係(*2)。エネルギーが1eVであれば、出る光の波長は1240nm(近赤外)。2eVであれば 620 nm(赤橙)、2.5eVであれば 496 nm(青緑)といった具合です。
 身近なところで以前多くあったのが、高速道路のトンネルなどでよく使われていたオレンジ色がかった蛍光灯。あの光は、ナトリウム(Na)の電子が発する589nm(黄)の光が使われていたものでした。Na電子に由来するこの589nmの光は、太陽光の可視光スペクトルの中の暗線の一つ「D線」として観測されたことから、ナトリウムD線と呼ばれます。(*3)

 なお、ガスコンロなんかの炎が青色になる原理もこれと似ていて、燃料(ガス)成分の分子が燃える途中でできるエネルギーの高い中間体の発光によりあのような色が見えています。
 ときどきこの青色は、高温による熱輻射(黒体放射)で・・・と勘違いしている方がいますが、・・・熱輻射というのは、我々の体からも赤外線が出る現象のことを言いますが。黒体放射の光が青白に見えるのは、温度が20000℃とかの場合です。太陽でさえ表面が8000℃「しかない」ために、黒体放射の色としては黄。黒体放射でそんな色を発するものは、地球上にはまず無いでしょう。ガスコンロの炎が青色になる理由はこれでなく、燃料分子の中間体による発光です、というところで。

炎色反応ってなに?(オカダジュクール)
なぜトンネルの中はオレンジ色? 道路照明に隠された工夫とはGazoo、2018年4月13日)
炎色反応名古屋市科学館
赤外線、黒体、放射率について(ジャパンセンサー株式会社)

+++

 二つ目は偏光。一つ目の炎色反応が長くなりましたが、偏光も面白く光の不思議現象を体感するにはもってこいです。
 具体的には、偏光板という、一見しただけではただの透明な物体にしか見えない板を目の前で回転させると、液晶や透明なプラスチックパック(フードパック)、セロファンやペットボトルの見え方が変わるとか。鏡を入れた筒の中に、小さく切った透明プラスチック片を集めていれると万華鏡ができるとか。

つくばサイエンスツアー ~光と地面の不思議巡り(2017年4月)

 三つ目は分光。エキスポセンターでの光のショーでは、透明な回折格子フィルムが「イルミネーションをのぞいてごらん」というメッセージと共に配られました。
 細かい説明は抜きにして、分光をすると白く見える光が、実は「白」という一つの光からできているわけでないことが分かります。




 白い光は虹色に、青い光はただ青に、青緑の光は青と緑に分光されている図。こちらの下に動画バージョンも(→こちら)。

 光は本当に、私がいま大学で進めている研究の材料としても面白いもので、これをうまく使うことで見たいものを初めて見えることがあれば、ただあるだけで邪魔になってしまう(元々見たかった別のものすら見えなくなってしまう)こともあります。研究の場だけでなく、色々な場所で光の不思議に向き合うことで、目の前のものを様々な視点から捉えられるようであり続けたいものです。

 最後に、元旦に初日の出を見る方は、是非こちらもどうぞ。
今年も地球が回っている―日出入の方位計算まで(2018年1月1日)



+++(以下、注)+++

 (*1)
Li:赤、Na:黄、K:紫、・・・と元素と炎色反応の色とが対応づけられた語呂。この語呂合わせにはアルカリ金属(1族)のうち第2~4周期のLi(赤)、Na(黄)、K(紫)、アルカリ土類金属(2族)のうち第4~6周期のCa(橙)、Sr(紅)、Ba(黄緑)、そして遷移金属の銅(青緑)が登場します。アルカリ土類金属のうち、第1~2周期のBeとMgに炎色反応が起こらないのは、発光がそれぞれ234.9nm、285.2nmと紫外光にあり色が見えず、「発色が起こらない」ためです。
 一方で、第5, 6周期のアルカリ金属RbとCsは、それぞれ暗赤色と青紫(ただし、Csには高温の炎が必要)の炎色反応を示します。また、遷移金属のうちスズ(Sn)や鉛(Pb)、金属元素には分類されないものでもホウ素(B、緑)やヒ素(As)は炎色反応を示します。

 (*2) ε=hν
ε:光子のエネルギー、h:プランク定数、ν:光の振動数(波長の逆数)。

 (*3) 実際には589.6nmと589.0nmに分かれており、それぞれD1、D2と記号が振られています。