特別講義「日本とアフリカのこれから」(2017.9)から

 今月、理科大野田キャンパスでの特別講義「日本とアフリカのこれから」で、ベナン出身の大学教員やセネガル出身のミュージシャンと交流する機会がありました。
 ベナン出身の先生の、おそらく私より強く確信している「少しのほんの小さなチャンスが、今はそれに気づいていなくとも、人生を大きく変えるかもしれない」話や、今の世界を知るためには歴史、とくに近代史を知らなければという話など、私自身が共感することも多くありました。

 小さなきっかけとしてアフリカ大陸との交流で言えば、私のエジプトの研究者との出会いは私の人生を豊かにしてくれたと思いますし、歴史と言うと、日本では多くの人に近代史が教えられていないことがいくつかの問題を招いていると思います。もっとも、近代史については多くの子どもに十分を教えるのに必要なだけの人がいない、というのが問題なのだろうとも思いますが。

 日本でもこの国の政府が、19世紀以降に何をどう判断して世界の中でどう振る舞ってきたのか、それが世界でどう見られてきたのか、その近代史が冷静に語られなければならないと思います。それがあれば、他国での認識(教育)に触れたときに、拒絶とも無条件の頷きとも違う応答の仕方の幅が広がると思うので。
 それなしに、文化を異にする人たちとの持続的な協力関係なんてあったもんじゃない、と私は思うのですがどーなんでしょ。

 アフリカの様々な国家の独立性が、植民地時代が終わったはずの今も保証されてはいないというベナン出身の先生のお話。そのようなお話に対しては「国際社会はその解消のために動いていないのか」という問いが上がるのが定番ですが、それに対して「国際社会とはどう形成されていると思いますか?」「国連って何ですか?」ときっぱりと返し、現存する問題の根本を見つめてほしいと学生に問いかける。
 特別講義では同じ日に、国連のFAO(食糧農業機関)の人も講師として来ていました。その方はその方でもちろん信念を持って仕事をしている講師のお話を、ベナン出身の先生は本音でどう聞いていたのだろうかと思いを巡らせずにはいられませんでした。

 世界について表に出てくる情報に踊らされないよう、もっと世界のことを知っていたいと思います。それも、いわゆる先進国や国連常任理事国の論理だけでない世界のことを。ベナンの先生が話していたことで言えば、教育水準とは、識字率とはいったい本質的に何なのかということも。

 現地の独特の疾病には、現地に伝わる独特の薬があることもあります。それを調べることも面白そうです。

ベナン観光情報-基礎知識・健康管理などNPO法人IFE)
世界の医療事情-ベナン(日本外務省)

 特別講義で共有されたことには学生たちにとっても私にとっても、「知っていたつもりのことと違った事実」が多く含まれていたと思います。それを聴けることは私にとっても貴重な機会でした。普段聞けない話を聞いたりしたりそれに問い掛けたりできること、それが、人生を豊かにしてくれる大きなチャンスの一つだと思うからです。

 特別講義で私自身は、現在の世界の大気環境と疾病リスクの話題を紹介した上で、エジプトの研究者たちの共同研究を例示し、先方の高等教育の現場の雰囲気とadvanced scienceの希求、すでにある概念に囚われない先方の自由な発想と私たちの研究技術とのコラボレーションの可能性に触れました。そして、遠方から来る人を迎えるのに行われる準備や姿勢(ホスピタリティ)、私が触れたエジプトの研究者や学生たちの人柄についても紹介しました。

 写真のいくつかは2015年3月のエントリ「エジプトのギザ、カイロを回りました」にアップしたり、理科大同窓会誌『理窓』の2017年1月号の原稿でも紹介したりしましたが。



 写真を見ると、彼らの大らかな人柄を思い出します。みな元気にしているだろうか、今は何をしているのだろうかと想いを馳せつつ。





 そんな話をした上で私は講義の出席者に、アフリカ現地でのプロジェクト展開を仮想して自身にどのような工夫ができるかを考えてもらいました。
 結果として講義の出席者からは、現状の分析を将来を担う若者にリアルタイムで知ってもらい、プロジェクトで何かが変わっていく過程を子ども達に分かるよう見せていくことが有意義だろうとか、その変化を多くの人が実感できることが大切だろうなどという意見も聞かれました。科学教育の観点にも言及したそんな意見を学生から聞けたことは、とくに頼もしく思ったことでした。

 まったく知らなかった新しい情報に触れると、自身の無知に絶望に近いものを感じることも少なくはありません。しかしそれでも、知らなかったことを知れるというのは純粋に嬉しいこと。今そのときそのときにできることを、私自身これからも楽しんでいきたいと思います。

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