10年後、生き残る理系の条件

 本のタイトルは標題の通りですが、10年後生き残るためというよりも、今見えてるくらいの狭い世界を出ても評価されるためには何を持つべきか、ということが書かれているのだと思います。逆に、組織の役職を掲げて目先の判断に追われるおっさんとか、将来そんな人たちのように生きたいと思う人には関係ない本。

 ここに書かれているのは、今いる組織でどう思われるかなんてことより、そこを出たときに評価されるにまず何を持つべきかということ。そして、持った考えを他人にどう伝えるか、伝えるチャンスをいかにして手にするかということです。
 こう書いただけでも、ポイントは「まず語るモノを持つこと」「次いで語れる力を持つこと」がチャンスを掴むには必要だと分かります。本書でも、語るモノを得る機会が不十分なままに語れる力に偏重する教育があるとすれば、それは憂うべきことだと注意を促しています。

 本当にそうだよね。

 たとえば国際会議でプレゼンするにしても、発言がそのプレゼンのために付け焼き刃に準備したものか、それ以上に本人自身がどれだけ深く考え、言葉にしようとしてきたものなのかは、語り口調を見ればすぐに分かる。たとえ語り口調はテクニックでごまかせるとしても、短いプレゼンを終えて討議に移った瞬間に「考えた深さ」を晒すことになります。

 そして会議の場で見られるのは、本人がその話題(topic)や問題(issue)についてどれだけの考えを持っていて、それにどんな根拠があるのかということ。だから、物事を自分の頭で考えることと、考えたことを表現するに堪える言葉にできる「基礎知識と論理」を持つかどうかが、人の進む道を分けるんですね。
 私もこの4月から新しい分野に足を踏み入れたので、前の分野の知識を強みにしつつ、この点を試行錯誤しながら探っていくことになる。そして加えて、事態を動かすには考えを誰に伝えるのか、キーパーソンにどういうチャネルを通して伝えるのかということも重要になるでしょう。



 最後にこの本にあった言葉から、引用するのは悔しいのですが3文だけ引用させてもらって、備忘録にしようと思います。

 「もうダメだ」と思うか、「まだまだ自分は勝てる」と思うかが、勝負の分かれ目。誰に何と言われようが、自分が信じる道を進んで行く。もしそれが正しい道ならば、世界の誰かが支援してくれる。

 本当にそうだよね。書かずとも忘れまいと思いつつ。今日うまくいかなかったことを嘆く暇を潰して、また今・次にできることを大切にしようと思わせてくれる本でした。



 あと、そろそろ「あとがき」かなぁと気楽に読み始めた末尾の対談章が、人事の実際、業界大手の「評価」の弱さを綴っていて、気楽に読んでいる場合でない興味深い内容でした。そりゃそうか、城繁幸さん×竹内健さんだし。タイトルを見て前の同僚も読みたいと言っていたので、心から一読を勧めようと思います。