これから研究者を目指す仲間へ

 今日から新年度が始まります。私は日曜日なので休日ですが、明日からは大学でも新しい年度の仕事を始めます。皆さんの中には、学年が上がった人もいるでしょう。立場や肩書きの変わった人もいるでしょう。

 私の親しい仲間に、将来の仲間に、とくに研究への道を目指す歳の近い仲間にメッセージを送りたいと思い、おこがましいと思いながらも以下の文章を書きました。

 研究は、楽しければいいと思っていますか? 社会に還元できればいいと思っていますか?

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 研究は、成果により評価される仕事です。これは本質的には他の仕事でも同じだと思いますが、研究という仕事においてこの事実は決定的です。

 努力をすれば評価されると思っていますか?

 答えはNoです。成果の上がらない努力は評価されないという覚悟を、(もし研究という仕事で成功したいのであれば)持ってください。逆に、もし研究者になりたいというあなたが、努力して挙げた成果を評価してもらったり、成果を挙げるために努力することを心から楽しめるのであれば、それは幸運なことだと思います。そして、努力することと努力しないこととを自分で選びましょう。

 プレッシャーに打ち克つ覚悟はありますか?

 プレッシャーのかかる中でも、実力を発揮し続けることができますか? たとえばもし自分の周りに、自分より優れたデータを手にしたり、まとまった成果を挙げたり、自分よりも優れた業績を挙げたりしている人がいても、そのときも「自分の大切なもの」と向き合う覚悟がありますか?

 それは、「今/そのときに自分が大切だと思っているもの」に固執する覚悟ではありません。必要なのは、今、そしてこれから起こることを自ら考えて、「自分の大切なもの」を練り上げていく力です。自らの過去を無駄にせず、しかしそれに固執することもなく、「今」を通して自らの「過去」と「将来」を繋いでいくこと。それが、人が限られた時間の中で最大の成果を挙げるためのコツだと私は思います。

 そんなのは理想論だと笑う人もいるでしょう。そんなのは当たり前だと笑う人もいるでしょう。私自身もそうだなと思うことはあります。ただただ、それが今の私が大切にしている「コツ」であることだけが事実です。

 他に過剰に囚われず、自分に集中してください。

チャンスをたぐり寄せるために

 ここで一つ、残念な事実ですが書き添えておきたいことがあります。この世界には成果の偽造、俗に言う“論文捏造”の問題があるということです。科学研究の価値を揺るがす大問題です。
 常に科学に、そして自分の良心に対して誠実であってほしいと思います。それも「プレッシャーに打ち克つ」ことの一つとも言えるでしょう。

 たとえ周りが自分とは違うように見えても、自分だけでも自らの良心に従う、従えるという気概を持ちましょう。

 人と人とが違うこと、他人と自分とが違うことは当たり前のことです。この当たり前のことを受け入れられる(ようになる)だけで、自分に見える世界、自分が力を発揮できる機会をずっと広がると私は思います。

人それぞれのライン

 研究者として大切な素質は、重要な順に次の3つです。このように私は考えています。

・論理的に事象を捉え、描き出す力。
・アイディアを出す力。もしくはそれを熟成させ、形にする力。
・一人でできないことを人と協調して形にする力。

 この力を活用し、結果として何を生み出すことができるか。それがすべてです。私のことをご存知の方は、「形にしたものを他者に伝える力」も大切なのではないか(大切にしているのではないか)と指摘してくださるかもしれません。そうですね、それもとても大切です。成果の内容やその価値を他者に伝えられなくては、他者は、社会は、世界は変えられません。

 ただし、自分自身で伝えることが苦手であっても、得意な人と協調して伝える作業を進めることもできます。なので、上の3つ目を満たしていればこの問題は実質的に解決します(といえる可能性があります)。というわけで、“伝える力”は上に次いで4番目に重要と言っておきます。
 一方で、自分が上の1、2つ目を満たしていないどころか「今後も満たす気がない」場合に「研究者」の道を進むことには、私はオススメできません。というのは、言うまでもないことでしょうかね。

 もちろん、私自身が上の3つの力を十分に持っているわけではまったくありません。これらを十分に持っていなければ研究者の道に進むな、と主張するつもりもまったくありません。
 大切なのは、上の3つのうち少なくとも1つの力は、3週間前の自分自身よりも上がっていると実感できること。少なくとも直近2ヶ月間で、自分自身に上の3つを活用する機会が最低一度はあった、もしくは鍛えられる場面があったと言えること。併せて、自分自身が仕事(研究)をできる時間が限りあるものであることを決して忘れないことです。

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 以上、エラそうに書いてしまいましたが、私がエラい者ではないのにこれを読んでもらってしまったことをご容赦ください。私自身も、まだこれから“成功”を目指す者の一人に過ぎませんが、皆様の幸運を願いまして。

 共に面白い世界を作っていきましょう。
 まぁ、硬いこと言わずに楽しくやりましょー。

 親愛なる今の、そして将来の仲間たちへ。