初めての大学院講義「どうしたら人の健康を守れるのか」

 2012年5月8日(火)、初めて大学での講義を担当しました。薬学研究や大学院修了後の仕事を、「どうしたら人の健康を守るためのものにできるのか」、「どうしたらそれで社会を変えることができるのか」について学生さんの課題提起を促すことを期待し、私の課題意識を中心にお話しさせて頂きました。

 薬学研究にも様々なものがありますが、創薬研究でいえば、「ただ薬効を研究する」だけでは人の健康は守れません。衛生薬学・環境毒性学研究でいえば、「ただ生体影響を研究する」だけでは人の健康は守れません。
 人の持つアイディアや研究で生み出される知見を、実際の政策やプロダクト、サービスにするために乗り越えなくてはならない課題は何か。このことを常に意識してほしいし、できればこのことに敏感であってほしいというのが、今日の講義で私が伝えたかったことです。

 理科大の大学院薬学研究科を修了した少なくない人が、将来、行政なり企業なりアカデミアで、政策や事業の管理(マネジメント)に関わると思います。そこでは様々な経験をしたり、いろいろなものを見たりして、知識もどんどん増えていくことでしょう。しかしそのときも、「自分が知らないこと」「自分の視野に入っていないこと」があることへの配慮を忘れないよう意識してほしいと思うのです。
 なぜなら、それがある判断をする際に思考停止をせずに、「その判断をするために何が必要か」を十分に考えられることの必要条件であるからです。

 これが、大学院修士課程を修了して4年、博士課程を修了して2年経った私が学生に一番伝えたいことでした。こんなことを私が口にするのがおこがましいとも思いつつ、私がベテラン社会人でないからこそこれを痛切に感じ、言葉にできる面もあったと思います。

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 講義では、私が自身の環境毒性学研究を「どうしたら人の健康を守るためのものにできるのか」について、1)取り組んでいる研究と、2)持っている意識についても紹介しました。

 1)化学物質の生体作用の正負の側面をフェアに評価するための、生体応答の“全体”を読み取る方法の研究
 -応用例として、疾患(子宮内膜症)治療ターゲットの探索と、ナノ材料による次世代影響の評価
 【参考書籍・資料】
 ・『実験医学別冊 マイクロアレイデータ統計解析プロトコール』(羊土社、2008)
 ・統計学各書
 ・MeSHを用いたマイクロアレイ解析法(2009年10月24日)
 ・本法の応用例、研究成果(2011年3月8日)

 2)私の取り組むナノ材料の生体影響研究が、ナノ材料リスク管理を目指すプロセスのどこに位置付けられるのかの意識
 【参考書籍・資料】
 ・畝山智香子著 『ほんとうの「食の安全」を考える ゼロリスクの幻想』(化学同人 DOJIN選書、2009)
 ・上著の解説:リスク評価の方法と高感受性集団についての考え(2011年10月7日)
 ・GHS表示のために行う消費者製品の暴露に由来するリスク評価の考え方経済産業省、2007年1月19日)

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 初めての「60分間のプレゼン」は長かったです。今日ほど学校の先生に敬意を抱いたことは、これまでありませんでした。講義の内容を研究材料とするために、ビデオ録画してくださった先生もいらっしゃったのに、ずいぶん“噛んで”しまったのも反省点です。
 しかし、7ヶ月後の今年12月には60分間どころか「90分間(+質疑応答30分間)」の講義を担当することになっています。そのときには、今日より良い講義ができるように準備したいと思います。