今週初めに、うちの研究室でも今年度の修士論文発表会が終わりました。毎年この時期に「修士論文の書き方」について思うところを書いてきましたが、私にとって薬学研究科の修士論文を見るのは、今年度でひと区切りです。
私が毎年のように書いてきたことは、薬学の修士論文に限らず重要だと考えたことばかりです。これが、論文を書く場面や分野が違ってもどれだけ使えるのか、それとも分野が違うとどれくらい書き方が変わってくるのか。私自身これからどう感じるのかが楽しみです。
というわけで、後々私自身が見てどう感じるかを楽しみに思いつつ、「修士論文チェックリスト」(2016.2)を書いておきたいと思います。
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まず、これらの要素を満たしているか・・・
<研究の背景>
・何が問題なのか(世界で、ある社会・業界で)
・何が分かっていて、何が分かっていないのか
・なぜ本研究が必要なのか
※論文 "Introduction" の書き方(2014.4)
※大学院で身につけたい研究マネジメント能力(2012.12)
研究の背景は、実験を始めてすぐの頃から早い段階で、自分で読める形でまとめられておくべきものだと私は考えています。
<研究目的>
・本研究で何を検証したのか
<実験方法>
・目的を検証するために取った方法を、他の人が再現可能なレベルで詳細に記載する
<実験結果>
・ある方法により、どのような結果が得られたのか
・その結果を踏まえ、次にどのような方法を取ったのか
・それにより、どのような結果が得られたのか
<考察>
・何が当初の想定に近く、何が意外だったか
・新たにどのような仮説が生まれたのか
その新たな仮説にどのような回答が示されたのか(もしくは、答えは得られなかったのか)
・以上の結果が業界・社会・世界をどう変えるのか
・本研究の限界は何か
<結論>
・目的とした検証の結果はどうだったのか
何を検証する目的で、どんな方法でどんな結果を得てきて、そこから何が分かったというのか。明確に述べる。
<以前のブログエントリも参考に>
●文法よりも構成を(2012.8)
●卒業論文(学位論文)の書き方(2012.1)
とにかく「何が言いたい論文なのか」(取り組んだ課題や結論など)をはっきりと示すこと。図に示してみたバージョンは、→こちら(2014.1)。
※こちらも参考に↓(うちの博士課程大学院生からの紹介)
修士論文の作り方(お茶の水女子大学・伊藤貴之教授)
ここまでできたら・・・
1)前提と課題設定が明確か
2)適切に結論が述べられているか
3)相関関係と因果関係とが混同されていないか
4)証明された部分と推論された部分との区別が明確か
5)引用元をしっかり確認する
学位論文に限らず研究の経過報告を示すときには、それがどれだけラフなドラフト原稿であっても、指導教員が参考文献にあたれる情報(Referenceリストと引用箇所が分かるように)をつけること。
指導教員が見ているのは、学生本人が書いた原稿の本文だけではない。参考文献も全部見る。参考文献にすべてあたれないと、本人が参考にしている先行研究等の情報が確かなものであるか、引用に誤りがないか、本人のロジックを構成する情報が確かにその先行研究・資料で示されているかを確認しようがない。
もっと言ってしまえば参考文献にあたれないと、「本人が何を根拠にそれを書いているのか判定できず」、場合によっては「その内容がウソか本当か判定できず」、評価も指導もできないと言っても過言ではない。
6)テクニカルな部分
①単位(国際単位系に含まれるもの)と数値との間に半角スペースを入れる。
※英文原稿で°Cを入力する方法
・・・°Cに限らないが(±とか)、英文の中に全角記号を入れたときの違和感を放置しないでほしいものです。
②自身で他の文書に準備した語句を貼り付ける場面があると思うが、その際にフォントの設定が乱れないように注意を払う。(あとで見落とさずに確認するのは非常に大変な上に、読み手に乱れが分かると(コピペっぽいのが)すごくカッコ悪い。
③図表のcaption/legendsと本文とがごっちゃにならないように注意。
④上付きや下付き文字の設定も、面倒でも後回しにせずに進めるべし(最後にまとめてでも良いけど、忘れないこと)。
⑤文の一つ一つが「文になっているか」をちゃんと確認する。とくに、各文の主語が抜けていないか。何が「何と比べて」どうだったか、という比較対照の情報が抜けていないか。例えば、どういう現象が「何によって」起こったのか、などについて語句を不注意で省かないこと。
※表現力みなぎる学位論文の書き方(2015.1)
⑥論文で(もっと言えば、良い論文で)見たことのない構文を、勝手に作らないよーに。そうしないと、文章が意味不明になる。
⇒論文作成チェックリスト(2013.11)
最後は・・・
●修士論文口頭試問で示すべきこと(2015.2)
●論文や研究発表を「読んでみよう」という気にさせるための要件(2011.2)
●Loose endsについて説明(defense)できるように
例えば、「~~~と言うけど***は検証したのか、どう考えているのか」という問いに対して、***まで検証できていなかった場合。なぜ***よりも自身の研究対象が重要であると考えたのかについて明快な回答がされるべき。
例えば、「***よりもまず¥¥¥が重要だと考えてそれを検証した。だからこそ、今までに¥¥¥が分かった。(この結果を踏まえて、次に***が検証される必要があると思う)」と答えられることが望ましいんじゃないかな。
論文作成に取り組んだ人たち自身が、考えて行動したことがどうアウトプットの質につながるのかを感じてくれればと願いつつ、また年度末です。今回はこんなところで。
●論文に何を書くべきか→これだけは埋めろ→論文作成穴埋めシート(2012年2月2日、くるぶし(読書猿)さん)
●学術界サバイバル術入門 — Training 8:論文掲載の戦略(Natureダイジェスト2019.5)