修士論文発表会は「どう工夫したら何ができたのか」を説明し切る場所

 1月末の2日間、私の今いる学科では今年度の修士論文発表会が行われています。


 今日、初日の午前中のうちに、うちの研究室の大学院生たちの発表が終わりました。一緒に研究をしてきた私としても、一つ大きな論文の投稿を昨夜済ませてひと段落つけ、少しばかりですがホッとしたところです。(*)

 私が薬学部から、研究拠点を基礎工学部の材料工学科に移して3年目。私と同じときに研究室に入ってきた学生の研究の学部4年~修士2年までの進捗を初めて見て、修士論文のまとめ方について思うところがあったので、ここにも書き残しておこうと思います。

 我らが曽我研究室での発表予演会で、今回最も重点を置くことになったのがこれ。それは、

 修士論文発表会は、できたことをただ列挙して説明する場所ではない。そうでなく、フツーにやったら何が問題となり、どう工夫したら何ができたのか」

ということこそを説明すべきだということ。自身の研究で目指した新奇の何かを試みる上で、何が問題になったのか。それをどう解決したり改善したりしようとしたときに、何がどう上手くいったのか、いかなかったのか。修論発表会はそれを説明する場所なのだ、ということでした。

 学生たちにとって大学で研究に取り組むまでは、重要なのは「何かをうまくできること」だったかもしれません。しかし、何かを覚えていくだけでなく未解決の問題を解いていく場面では、「何かを達成するために解くべき問題を見つけ、解く方法を考え、工夫してそれを解いていく」ことこそが重要になっていきます。なので、大学でのラボワーク(ゼミ)ではそんな力を付けることができただろうか、そのプロセスに意識的に取り組めただろうか、ということを最後まで本人たちに尋ねたのでした。

 と、ここまで文字にしてから見返してみたら、4年前にもここで似たようなことを書いていました。
 ⇒修士論文口頭試問のこと(2015年2月)・・・説明すべきは、結果を踏まえ、どういう課題が次に明確になり、その課題を検証するどういう方法を次に採ったのか。それにより、どういう結果を得たのか。その繰り返し。

 ただし、課題解決のためにした工夫も、ぶち当たった困難も、実はすでにレポートされていて既知にものであったのに「それは明らかでなかった」と言ってしまっては話になりません。なので、研究では先行研究を徹底的に調べることが、重要なプロセスの一つになるんですよね。

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 私は常日頃から、自分のことを含め誰かが何かをできないことよりも「できることに注目する」ことを大切にしています。そこでも注目しているのは、単に何かを達成したことではありません。「それを達成するために、何をできたのか」ということです。

 逆に、できたことや達成したことだけを列挙してしまうと、聞き手はどう感じるでしょうか。話している事柄について、やればできることが分かっていたのだろうとか、やれば誰でもできたのだろうとか、そういう印象を持つこともあるでしょう。
 そうでなく、「どう工夫したら何ができたのか」「それを達成するために何を工夫できたのか」を伝えられると、「あなただからこそできたこと」は何なのかが伝わるようになります。何かを、どうやって、なぜその人(たち)がすることに意味があるのか。説明する側にとっては "Why me?" の部分。それを伝えることが、聞き手に「次にはこの人に○○をお願いしたい」「この人と○○を一緒にやりたい」という気持ちを抱くきっかけを与え、面白い仕事との出会いを引き寄せるチャンスを生むことになるのです。

 ラボワークで得た力で卒業生たちが、そんなチャンスに多く出会っていってくれることを願ってやみません。

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 今日の楽しい時間は、もうすぐ卒業生になる人たちとの、発表直後の食事でした。


 @Pizzeria da TASAKI(金町)。クアトロ フォルマッジ (quattro formaggi) も、パスタもクラフトビールも美味しいお店です。

 ここには「修士論文に書くべきこと」もリストにしようと思っていましたが、見返してみるとそれは3年前に書いていたのでそちらにパスして、今日はこの辺で。
 ⇒修士論文チェックリスト(2016年2月)


 (*) とは言え、今すぐに修正して再投稿しなくてはいけないものが一つ、投稿準備中のものがまだ複数あるのですが。その事実はとても嬉しいことです。が、もちろん早く片付けて前に進みたいのも事実です。