共著論文発表―肝臓への過剰なコレステロール輸送による脂肪肝発症のメカニズムとその治療

 生化若手以来の研究仲間の豊田優さんとの、初めての共著論文が出版になります。肝臓において胆汁から肝細胞へのコレステロールの再吸収を司るトランスポーターNPC1L1(*1) について、その脂肪肝 (steatosis) 誘導における役割と、これに対する薬物の治療効果を検証した、東大附属病院の高田龍平先生らとの共同研究です。

●Toyoda Y, Takada T, Umezawa M, Tomura F, Yamanashi Y, Takeda K, Suzuki H: Identification of hepatic NPC1L1 as an NAFLD risk factor evidenced by ezetimibe‐mediated steatosis prevention and recovery. FASEB BioAdvances (Accepted on 18 Jan 2019)
 (*1: NPC1L1 [NCBI Gene]: Niemann-Pick C1-like 1 cholesterol transporter)

 私が担当したのは、NPC1L1を過剰発現させた肝臓で起こる現象を、遺伝子発現 (RNA) レベルで網羅的に捉えるためのマイクロアレイ解析でした。すべての遺伝子を複数の角度から機能分類した上で、NPC1L1を発現した肝臓に生じる変動遺伝子が、機能的にどう偏っているかを分析しました。
 この変動遺伝子の機能分類を使った手法自体はもう新しくありませんが、私が10年来サブワークで少しずつ工夫してきた解析方法です。とくに、変動遺伝子を抽出する基準を最適化することで、できるだけ少ない解析数、できるだけ少ないコストで、追究したい病理・生理学的変化について確からしい情報を得ることを目指してきました。

●これが10年前…「MeSHを用いた新しいマイクロアレイ解析法」(2009年10月)


 今回の論文では、平均値の群間変動を単なる比でなく、「平均値の『差』」を「群内変動の大きさ(標準偏差に相当)」で除した値として数値化し(*2)、変動遺伝子を抽出しています。一方で単なる発現比 (Mean fold-change) を変動遺伝子の抽出に用いると、発現量や存在量の絶対量が小さいものばかりが閾値にかかりやすくなってしまうという問題があります。
 (*2: この指標を論文中では "differential index"、"(M1-M2)/(SD1+SD2)" と記述しています。)

 ここで、絶対量の小さいものはその量に比べて群内変動が多くの場合大きいために(*3)、群内変動で標準化することで効果的に意味ある群間変動を、最小の解析数からピックアップすることができます。この「最小の解析数から」という点が私のこだわりです。この指標自体は以前に私が、統計解析ソフトウェアSpotfire (TIBCO) に実装されていたのを見て以来試してみたいと思い続けていたものでした(*4)
 (*3: 正確には、群内変動を超えて群間変動が大きくなければ意味がない、と言った方が真です。基本的には。)
 (*4: 他にも、用量依存的な発現変動をしている遺伝子群だけをピックアップしたり→Onoda & Umezawa et al. P&FT 2017、複数の要因による相互作用を考慮してピックアップしたり→Onoda & Umezawa et al. Sci Total Environ 2018 と、ナノ粒子曝露による次世代影響検証の研究課題を中心に最近も色々試し続けていたのでした。)

 結果として、NPC1L1の過剰発現により肝臓で、自然免疫系の活性化が起こることを明らかにできました。このデータは、NPC1L1の関与する脂肪肝発症においても自然免疫系の活性化が関与し得るという仮説をサポートするものでした。
 実際に肝臓でNPC1L1が高発現した動物では、脂質の多い食餌により短期間で脂肪肝が発症します。今回の論文は、この脂肪肝発症がNPC1L1を阻害するezetimibe(エゼチミブ)だけでなく、自然免疫を司るTLR4を阻害することでも抑制できることを報告したものであり、コレステロール輸送の担い手であるNPC1L1のTLR4シグナリングとの関係は面白そうです。とくに、NPC1L1の過剰発現が高脂肪食なしでは脂質の蓄積を引き起こさない一方で、自然免疫系をバックグラウンドで活性化させるという事実は、脂肪性肝疾患の治療を難しくしている一因をまた一つ示す根拠になると思われます。

 「脂肪」は私のこれからの research life での重要なキーワードになりそうな予感がしており、この主著者らが共同研究の機会をくださったことに感謝しつつの一報になりました。加えて、生化若手の会で知り合った仲間との共著第一報でもあり、二重に嬉しい論文報告となります。感謝。