低濃度ディーゼル排ガス曝露の健康影響に対するω-3脂肪酸の防御効果―他国の大学の研究者と共著論文発表

 エジプトの研究奨学生を2014年に迎えて以来の研究成果が一つ、新たに出版になります。


 Umezawa M, Nakamura M, El-Ghoneimy AA, Onoda A, Shaheen HM, Hori H, Shinkai Y, El-Sayed YS, El-Far AH, Takeda K: Impact of Diesel Exhaust Exposure on the Liver of Mice Fed on Omega-3 Polyunsaturated Fatty Acids-Deficient Diet.
 Food and Chemical Toxicology, 111: 284-294 (2018)
 [PubMed] [Full-Text←2018.1.12までフリーアクセス]

 この研究では、肝臓が環境にどう応答するのかということの一端を調べていました。肝臓は容積が大きく、病気になるときも後戻りできないほど重篤になるまで自覚症状が出にくいことから 「沈黙の臓器」 とも呼ばれます。とくに肝臓に脂肪が溜まると肝がんになるとも言われ
Nature 499: 97-101, 2013、その脂肪蓄積を早くに見つけるための研究を今も進めています。が、その肝臓に脂肪は一時的には、実に様々な原因で溜まることが頻繁に起こることも事実です。

 一方で、大気環境(微小粒子PM2.5)により受ける健康影響を抑えられるものもあるのではないか、という研究報告がいくつもあります(*1)。よくよく調べてみるとその中に、抗酸化作用と肝臓への脂肪蓄積を抑える作用の両方を持つω-3脂肪酸があり、これが実環境に近い条件でどれだけマイルドな生体作用を発揮するのかを検証したいというのが、今回論文で発表した研究の出発点でした。

 (*1) Onoda A, Umezawa M, Takeda K: The Potential Protective Effect of Antioxidants on Nanoparticle Toxicity. In: Li YJ et al., editors, "PM2.5 -Role of Oxidative Stress in Health Effects and Prevention Strategy-", Chapter 15, pp.197-210; Published by Nova Science Publishers, Inc. (NY, USA) (July 2015)
 [⇒Free Access to Full-Text (PDF)]

 結果、その生物が環境の影響をどう受けるかということが、摂った栄養により目に見えるレベルで変わる現象の一端を見ることができました。ただし、それを一番初めに感じることのできた実験データは今回出版の論文とは別の実験から得られたもので、本論文に盛り込んでもいなかったので、それはまた次の仕事で。

 環境や食事・栄養と健康との関わりは複雑なので、何かが分かったからと言って「では○○を食べよう」「○○を食べるのをやめよう」という話にはなりません。唯一言えるのは、妊娠初期の葉酸不足は絶対に避けようということと、あとは結局、食事はバランスが大切だということくらいで。ただしチキンとケーキの多いこの季節、チキン以外を食べられる食事では他のものからタンパク質をいただこうと思います。

 共同研究を楽しくしてくれたエジプトの研究者たちに感謝しつつ。

私なりの研究国際展開で考えた7つのこと(2017年2月)
低濃度ディーゼル排ガス曝露に対する呼吸器応答―他国の大学の研究者と共著論文発表(2016年6月)
他国の大学の研究者と共著論文発表(2014年11月)

+++

[メモ:肝がんやω-3脂肪酸に関わる最近の話題]

脂肪肝に随伴する炎症が引き起こす抗肝がん免疫の抑制

 ⇒ Inflammation-induced IgA+ cells dismantle anti-liver cancer immunity (Shalaour et al. Nature 551: 340-345, Nov 2017) [本文] [日本語要約]
 ⇒ Natureハイライト「腫瘍免疫学: 脂肪肝でのがんリスクの増大

ω-3脂肪酸代謝物が糖尿病網膜症に及ぼす影響

 ⇒ Inhibition of soluble epoxide hydrolase prevents diabetic retinopathy (Hu et al. Nature 552: 248-252, Dec 2017) [本文]
 ⇒ Nature Letter "A dark side to omega-3 fatty acids" (Yanagida & Hla Nature 552: 180-181, Dec 2017)