内山巌雄先生の言葉から感じた研究スタンス

 2016年2月17日、第51回FoRAM「日本のリスクアプローチ導入の歴史を紐解く」に参加しました。元公衆衛生院・元京都大学の内山巌雄氏を囲んで、日本におけるリスクアプローチ導入の経緯を知る企画。岸本充生先生の膨大な準備資料を交えた予習の会に始まり、勉強になることが大変に多い有意義な会でした。

 専門的な報告は、企画者の岸本さんや平井さんにお願いすることにして、私は印象に残った内山先生の研究スタンスを表す2つの話を、書き留めておきたいと思います。

 ①公衆衛生院にいて40代からリスク評価・規制に深く関わる。論文にならない仕事へのエフォートに迷いはなかったか
 ⇒迷いはなかった。論文を書けるかということよりも、人のためになる「仕事」をしたいと思った。誰かがやらなければならないが誰もすぐにはやりたがらないことをしよう、という思いだった。
 ただし、当時の公衆衛生院も科学の視点から規制にコミットすることを、決して学問とみなして応援してくれることはなかった。Regulatory scienceに相当する言葉もなかったが。

 ②リスク評価をリスク管理から切り分ける原則(Red Book 1983)を必ずしも実践できなかったことに対する思いについて。
 ⇒批判はあった。しかし、限られた時間内で決められなければ、状況がより悪くなってしまうという危機感が大きかった。実際には、アセスメントをするためにも(科学者の良心の中で)実現可能性を考えないと、単なる数字遊びで終わってしまうだろう。一方でコストベネフィット(費用便益)を表明できる場が限られている現実もあるが。


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 ※Red Book: Risk Assessment in the Federal Government: Managing the Process (United States National Research Council [NRC], 1983)
 ※辻信一先生「化学物質管理政策」(2012年5月)--ここでは「科学と政策との区別」の話がありました。
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 未解決の問題に新たな知見や視点を提供していくべく、研究マインドかくあるべし、と考えさせられました。
 そして、内山先生がこんなに多くの仕事・・・有害大気汚染物質の毒性評価にリスク評価、費用便益、国際調和や経済・立法・規制に直接関与する国際シンポジウム企画、地球温暖化による健康影響、許容リスクレベル、子どもの健康への環境リスク評価見直し、室内環境の問題(シックハウス化学物質過敏症)、アスベスト問題、リスクコミュニケーション、火山ガス、ディーゼル排気、PM2.5受動喫煙、大気中ナノ粒子・・・を主導されてきたと知り驚きました。

 ご本人の書かれてきた論文から、私も「リスクマインド」をもっと読み取りたいと思います。私自身、昨年編集・発刊したNova Publishers "PM2.5本"でも、東賢一先生との共著で内山先生から第1章を頂いたこともあり。


 会場の京都大学東京オフィス(27階)から。2016年4月にオフィスが丸の内に移転するそうなので、ここに来るのは最後かもしれません。当日は→集合写真も

 ●大気汚染に対する高感受性集団に配慮した取り組み・研究(~2012年11月)
 ●ゼロからわかるPM2.5のはなし > 内山巌雄氏スペシャルインタビュー(2014年2月13日)