社会的ヒエラルキーの形成機序の神経生物学的理解(@FENS-FFRM2015)

 社会行動の中にあるhierarchy(階級や序列)は、ヒトだけでなく他の哺乳類や昆虫など、社会行動をとる生物に共通して存在します。Hierarchyは争いによるエネルギー消費を減らす一方で、社会的な不均衡も生みます。その不均衡が、健康状態に関わるほどのストレスも個体にもたらすというのも、ヒトに限った話ではありません。

 人でも社会的地位によって、相手の顔を見るパターン(Face scan pattern)が違っているとか。そんな階級の違いが、生物界の中でどのように決定しているのかについて、神経生物学の面から理解することを試みる研究があるようです。「Hierarchy」や「社会的不均衡」をなくせという意味でなく、そういったものがある中でどういった意思疎通(コミュニケーション)を取り得るかといったことについて、興味深い示唆があると思いました。

 例えば、過度に不安を感じてしまうとそのストレスに耐えられなくなってしまう、というケースがありますが、
 
"From high anxiety trait to depression: a neurocognitive hypothesis" by Sandi & Richter-Levin (Trends Neurosci 2009)

 マウスの個体ごとの不安様行動の多少をモニター(elevated plus-maze testで分類)した後で、彼らを集団飼育し各個体の行動を観察すると、high anxiety (HA) traitを示す個体の方がsubordinateになる割合が多いそうです。HAだとsubordinateになりやすいのでなく、先にsubordinateになっていためにHAだったのかも、という点など疑問が無くはありませんが、動物でも「行動という表現型への不安の表出」と「競争の結果」との間に相関があるというのは興味深いと思います。

 Dominantとsubordinateでは、社会的ストレスに対するコルチゾール(ストレスホルモン産生)だけでなく、中枢神経系の伝達物質など生理的な応答も異なるとのこと。HA traitやdominant/subordinateの脳神経活動の特徴は、報酬やモチベーションと深く関わる側坐核の機能について報告が多そうです。


●"Serotonin reverses dominant social status" by Larson & Summers (Behav Brain Res 2001)
 Amygdalar serotonergic activation responds rapidly (1 h) in dominant males, but is expressed slowly (1 w) and chronically in subordinate males in Anolis carolinensis. When dominant males alone were treated with sertraline, their social status was reversed or negated. Social status and aggressive disposition do not appear to be immutable, but may be changed by neuroendocrine mechanisms that mediate adaptation to environmental conditions like stress.

 社会的ストレスと、それに対する応答。脳の機能としての報酬とモチベーション、不安とその行動への表出と、競争の勝敗。言われてみれば、相互の関わりはあって当然とも思えるのですが、それを脳の神経活動のレベルでまで分かってきているのは面白いと思います。

 一方で、そういった脳神経系の機能(というより、性質?)が社会的環境要因によって変化することも分かっているようなので、その環境要因が脳神経系、ひいては心の形成に重要なのだのだろうなぁと、改めて感じます。


●"Repeated exposure to social stress has long-term effects on indirect markers of dopaminergic activity in brain regions associated with motivated behavior" by Lucas et al. (Neuroscience 2004)

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 10月6日に到着したギリシャでの学会は、2日目まで終えました。私が以前から取り組んでいた網羅的遺伝子発現プロファイル解析の方法や、最近注目している脳血管周囲の細胞の解析方法についてもディスカッションできる人がいて、勉強になっています。


 この写真は学会初日のレセプションにて。



 学会でのランチバッグに入っていたドリンクが、見たことのない "Green Coca"(しかもギリシャの国旗入り)で驚きましたが、どうやらστεβια(ステビア)の入ったコークのようでした。

 ポスターでの研究発表も、りんごをかじった後の手を洗いに行けないくらいには活況で、嬉しいことでした。研究の次の一手に活かしたいと思います。

 2015年10月のギリシャ・テッサロニーキ
ギリシャ・テッサロニキに来ました
・社会的ヒエラルキーの形成機序の神経生物学的理解 @FENS-FFRM2015
古くからの広場と城と雨と
ギリシャの食事と「ギリシャらしさ」と
本当は行きたかったテッサロニキ近郊
・直前に・・・ 旅の友・別れと感謝