発達障害-問題解決に必要な情報共有のプロセス

 私は、発達障害患者が特別のクラスや施設に入ることなく、他の多くの人と同じ機会にアクセス可能になることを望んでいます。

 このとき、変化の影響を当然ながら患者自身が受けることに注意が必要になります。結果として何がどのように変わるのかについて、注意深く見極めなければいけません。それは、患者の受ける影響が本人にとって良いものばかりとは限らないためです。
 もし、「発達障害患者のために」といって起こした変化が患者自身の望まないものであったら、その取り組みは失敗であったと言わざるを得ないでしょう。

 そのため、発達障害患者がどのような活躍の機会を、どのようにして得られることがその患者のためになるのかについては、注意深く情報交換を行わなくてはなりません。

 例を挙げると、診断については、たとえ早期のそれが可能になっても対処法がなければ、診断された人やその家族に苦しみを与えるだけの結果になる恐れがあります。
 また、対処法について、発症予防や治療の方法を確立することは有意義です。しかし、発達障害に関わる脳神経系の分子生物学的な情報が増えてきた一方で、そのいずれを「どうすれば実際の予防・治療法に結びつく可能性があるのか」については、常に問い直される必要があります。
 病因が分かりさえすれば、治療法を確立できるわけではないのです。

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 ある課題に対して、社会の仕組みを変えることによる解決を目指す場合には、関連する分野の専門家が議論に参加する必要が望まれます。社会の仕組みを効率的に変えるためには、専門家の知識や力が必要です。
 また、その議論には当事者が参加している必要があります。ここで参加すべき当事者とは、発達障害でいえば患者およびその家族です。彼らが議論の場に参加できていないと、当事者に解決してほしいと望まれるものが何か、結果として何をどのようにすることが望まれるのかという、根本となる方向性を見誤る恐れがあるからです。

 これらのことを踏まえると、発達障害に関わる課題を解決するための議論は、様々な人が参加しなければならないものであることが分かります。それでは、その議論はどのようにすれば実現するのでしょうか。

 これを論じた研究報告の一つが、『科学技術コミュニケーション』誌上にあるので紹介します。

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・東島ら、「自閉症研究と社会にまつわる多様な市民間の対話の試み」(科学技術コミュニケーション 11巻 pp.28-43、2012)
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 この研究は、「多様な市民が、(中略)…それぞれの視点や経験に根ざした対話を土台に自閉症(=広汎性発達障害)研究や社会に関わる議題設定を行い、社会に発表する場を提供すること」を目的として行われたものです。この中で、自閉症に関して重要なこと、問題であること、今後話し合いが必要だと思われる事柄のリストアップが実施されています。

 ここで記述されている内容として、興味深いと思われた点を二つ取り上げたいと思います。(文章は、論文の著者の意図を汲み取りながら若干の変更を加えてあります。)

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●議題を設定するときの工夫
 研究者(専門家)主導の議論ではなく、様々な市民視点からの問題提起が行われる場作りを目指した。
 提言・議論の中で行う問題提起の自由度を高めた。

●提言をする際の注意点
 提言の中で言及される組織や人々、あるいはそれらに働きかける可能性を持つ人々に対して、その提言を届ける設計上の工夫が必要である。
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 このような報告の内容も参考にしながら、発達障害に関わる課題を解決するために必要な情報共有が促されることを私は望んでいます。


発達「障害」と言わざるを得ないのか(2012年2月7日)
発達障害の問題に取り組む人はどこに(2012年7月3日)