「これからの薬学生に5つの心得」のウラ

 ある事柄に関して、Aと言う人がいる。Bだという人がいる。彼らの主張は、真逆のことであることもある。

 例えば、あるワクチンについて、あんなの効かなくて副作用(リスク)が高すぎるから良くないと言う人がいる。一方で、高い確率で効果が認められてベネフィットがリスクを上回るから、接種を推奨すべしという人がいる。アレルギー疾患の発症には、遺伝要因が大きいという言う人がいる一方で、環境要因が大きいという人もいる。

 こういうのって、単に賛成・反対と言えばいい問題ではないことが少なくありません。そもそも、そんな情報って字面だけ読んでいても意味がないんですよね。
 知るべきは、各々の人が「なぜそう考えているのか」というところ。そこまで読んだとき、情報の解釈の幅はグンと広がるのです。

 主張や情報のウラに何があるかを探る力は、いろいろな場面でモノを言います。とくに、複数の人の意見を考慮してグループの方針を決定する場面で。いわゆる、チームマネジメントってやつの一つです。
 Xがいいんじゃないか、Yがいいんじゃないかと言うメンバーがいる中で、チームとしての方針をどうするか。それを決めなくてはならないとき、各々のメンバーがXと言う背景には□□□、Yと言う理由には△△△があるということを言葉にできるスキルが重宝されるのです。
 □□□や△△△までを言葉という形にして、人どうしで共有できるようにする。それが、様々な人の意見、主張や知識=情報を十分に活用するための第一歩です。

 ●こちらも参考に→「リスクコミュニケーション・パターン集」作成の試みー不安・懸念に寄り添うために(難波美帆さん、アゴラ2012年9月4日)

 「情報を精査する」というと、情報の質の良し悪しの話になりがちかもしれません。が、判断できると本当に意味を持つのは「良し悪し」ではなく、「なぜそのような主張になるのか」というところなんです。

 そしてその上で、自分はどう思うのか、さらに、「どういう理由でそう思うのか」という点に意識を置けること。少なくとも、自分の大切にする事柄や分野に関しては。それが次に、ある分野で自分が勝負できるかどうかの必要条件になるのです。

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 昨日、薬学部1年生の授業を1コマ担当してきました。土曜日の夕方という、とてもかわいそうな(!)時間でしたが。次の5点のメッセージに、私の研究その他の話を乗せてきましたよ。

 ①情報を活用せよ
 ②情報を精査せよ
 ③メモを残すべし
 ④情報をアウトプットせよ
 ⑤ま、いろいろやってみぃ

 とくに③は、どんなタイミングでも頭に浮かんだこと、「おっ」と思ったことをメモをしておこう、ということ。これが、一番シンプルに受け止めてもらえたようです。
 「そんなにメモをしようと思ったキッカケは何ですか」という質問も受けました。

 答えは簡単です。「数日後、数時間後に思い出せなかったとき、悔しかったから。」

 メモすることで情報やアイディアを書き留めて。で、折を見てたまった情報を自分なりの形に加工して、アウトプットしてみようね、と。アウトプットまですれば、自分でそれを目で確認し直すことができるから。他の人の目に触れる形にすれば、何らかの形で、少しであっても、フィードバックを受けることができるから。
 だから、まずはいろいろやってみれば良いと。基本的に私は、学生に対してそういうスタンスを持っています。

 「それをやったら自分がどう思うか」「周りはどう反応するか」「その反応を見て自分がどう思うか」。実践することで、それらを自分自身で感じることこそが、とても大きな意味を持つのです。
 何かしらの行動に対して、自分がどう思うか、周りはどう反応するのか。それについて、実際にやった結果得られるフィードバックに勝るものはないんです。

 そう、結局は「やるかどうか」なので。だって、自分で考えてさえいれば、行動する意義を最大化できるということなんて、ないと思いません?

 いや、考えてさえいればすべて分かるという(超人的な)人もいるとは思いますが、少なくとも私はそうではありません。私に限らず多くの人にとっては、考えるよりまずやってしまった方が、「何を」すれば良いかについてより大きなフィードバックを得られるはずです。
 ちなみに私個人的には、「やる」中で遭遇する新しい場面や問題を、その場で一つ一つ “なぎ倒したり” “よけたり” していく感じも好きです。

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 ま、とにかくまずは「やること」、そしてその中で「何かを感じる」こと。その前に、「まず何をするかを考える」ことも、多少前提として入りはします。が、考えて迷って動けないくらいだったら、「迷った順にまずはやる」くらいのつもりでいること。
 その方が、ずっと効果的にいろんな “答え” に近づけることが多い、と私は思うのです。

 要は、「考える・迷う」(インプット)と「動く」(アウトプット)のバランスを意識しようってこと。それでもってその次は、「経験からフィードバックする=考える」(インプット)から「次に活かす」(アウトプット)のサイクルを回そうってこと。そういうことです。

 ちなみにその昨日、出席票の裏面には、学生からたくさんの質問やコメントを頂きました。(そういうルールがあったみたいです。) サラっと目を通したところ、嬉しいものもあり、重いものもあり。

 「大きな情報をうまく活用せよ。」

 私も今週、この学生たちからのフィードバックに向き合ってみようと思います。

 ※大学1年生にはちょっと先のことになりますが、大学院に対する私の考えは→こちら。私の手元はもう、別刷りがないのですが、理科大の図書館には冊子があるのかな。