消費者製品の安全性評価についての懸念

 一部の消費者製品には、新しい物質/未知の物質を環境中に放出するものがあるようです。
 現在のところ、人が摂取したり環境中で触れたりする医薬品、食品、化学物質などのリスク管理は、法的にはそれぞれ薬事法食品安全基本法、化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)によってなされています。

 しかし、その枠組みに入らないもので、人への曝露が増えているものがあることも事実です。ここで、リスクの大きさは「有害性の程度×曝露量」であると考えることができます。その下で考えると、やはり曝露量が多いと考えられるものについては、有害性の程度が十分に研究され、リスクも評価される必要があるでしょう。
 それが一般環境中に放出され、(医薬品と異なり)曝露され得る人の数が多いものである場合にはなおさらです。

 健康に対する有害性の検証の方法として、現在でもすでに様々な種類の毒性試験があります。その方法は、例えば国際的な枠組みであるOECD経済協力開発機構)のガイドラインに準拠する形で、日本の化審法にも明示されています。そのような規制の下で、様々な物質のリスクは管理されています。

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 そういった枠組みの下で行われる安全性評価に、課題はあるでしょうか。

 私は、「ある」と考えています。その一つは、「長期曝露による影響が十分に評価できていないこと」です。つまり、長期曝露による影響を評価するのに、現行(従来)の毒性試験の項目で十分か、という懸念があるのです。



 そう言うと、「試験の方法(曝露スケジュールや期間)に問題があるのか」という質問を受けることが多いです。が、私はそうは考えていません。限られた試験試料から、どれだけの情報を拾うか、もしくは拾える方法があるのかという点が重要であると、私は考えます。

 現行の方法(毒性試験)では、多くの場合「細胞が死んでいないか」とか「大まかな形態が変わっていないか」といったことしか確認されていません。そうではなく、有害性に関するもっと機能的な情報を、限られた試料から網羅的に得ることが必要なのではないかと思うのです。

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 残念ながら、機能的な解析技術で安全性評価に十分に活かせるものは、まだ無いと言うしかないのが現状です。機能的な解析技術で、実際に起こる有害事象(例えば疫学研究の報告)につながる生体影響を捉えられるのか、ということを、データをもって明示することが必要であるわけです。

 しかし、それでも、短期的に問題がないだけで「問題ない」と思い込んでしまったり、大多数の人に問題がなければ「問題ない」と思考停止してしまったりする流れがあるとしたら、それは重大な問題を孕んでいるのではないでしょうか。
 そんなことを、今週新潟で行われた大気環境学会・第54回年会では問題提起してきました。業界や行政、他の大学の方々と、有意義な意見交換ができたと思っています。

 これが実を結ぶかどうかは、これから次第ですが。

●以前の関連エントリ
身近なリスクを定量的に考えよう(2012年9月29日)
生殖発生毒性学の抱える課題(2010年10月2日)
環境リスクの問題に伴う「不確実性」(2012年6月27日)