環境リスクの問題に実際に対応することは、なぜ困難を伴うのでしょうか。
その明確な答えの一つとして、「科学的データが、すべて『不確実性』を内包している」(→参考:辻信一先生講義『化学物質管理政策』、2012年5月) からである、ということができます。
科学的データが不確実性を内包する理由は、データがあくまで“ある実験デザインに則って”得られたものであり、“その実験条件の下で”得られた結果であるためです。また、その実験デザインが“実際”に限りなく近くとも、計測値により見ることのできるのは常に「代表値」であって「真の値」ではないことも、不確実性を生む一つの要因と言えます。
とくに、環境リスクの問題はこの「不確実性」の大きな領域であると言われます。それは、この問題が「各人の背負うリスクの大きさは少ないが、影響を受ける人口は多いものを扱うもの」(NITE 村田麻里子氏講義『化学物質の暴露評価とリスク評価』、2012年6月) であるためです。
たとえば、環境リスクを評価するときには、次の要因により発生する不確実性が問題になります。
1)生物種差、2)個体差(個人差)、1および2に起因する体内動態や反応性の違い、3)当該化学物質の環境内挙動、4)評価系(実験デザイン)における曝露時間の長さ。
これはもちろん、他にもあるかもしれません。
この「不確実性」を縮小させるためには、より評価する実験系として“より実際に近い”ものを設定し、これを選ぶことが必要になります。また、ある条件下で生理的現象や生化学的反応が起こるメカニズムを明らかにすることにより、その実験系から得られた評価値を「ヒトに外挿すること」の妥当性を検討することも有効です。(→参考:ナノ粒子の生体影響評価・生殖発生毒性評価の問題点、2012年3月)
なるほど。だからこそ・・・
それでは「どこまで詳細なリスク評価を行うか」、「どこまでの科学的根拠を求めるのか」ということが問題となるわけですね。そして、その判断は最終的に「意思決定者(リスク管理者)次第」であるということまでは、合意の取れることかと思います。
(このことは、EPA[Environmental Protection Agency、米国環境保護庁]でも1995年に明確に示されています。上記の村田氏講義[2012年6月]でも触れられました。)
しかし、それでもなぜ環境リスクの問題に実際に対応することは、困難を伴うのが現実です。それはなぜなのでしょうか。
その答えは、まだ私の中でも定まってはいません。研究を進めて然るべき形でアウトプットした後に、また解説してみたいと思います。