生命科学系大学院生の思考と選択・四例

 1)
 修士課程に在籍中から、学位(博士号)取得者のキャリアの選択肢を拾い上げ、選択する。自らの望む選択を可能にするための行動を取り続ける。博士課程では大学院教育や博士課程の在り方に疑問を持ちながらも、その中でも自身の望む道に進むためには何かを必要であるかを常に問い、その答えに従い行動していく。

 博士号を取得した後も、その姿勢を変えずにトライを続ける。次に、そしてその先に自身が望むステージに到達するために、必要と判断した行動を選択し続ける。すべては、自らが望むレベルの価値を生み出せるようになるために。

 学位は目的ではなく、次のトライを支える一つの道具でしかないことを理解している。アカデミアに身を置きつつも、アカデミックポストに“空き”がなければいつでもアカデミアを飛び出して、自分の考えを価値を生み出す仕事をし続けようと目論んでいる。需要と供給のバランスに逆らっても良いことはない。後輩のキャリアマネジメントの企画にも足を運ぶ。「完全な解はなくとも、自分なりの解に従い行動を選び、進路を拓き、新しい価値・知・技術を生み出していく」その姿勢が、活躍を望む後輩の模範ともなる。

 2)
 修士課程に在籍中、企業の研究職の内定を受ける。その企業に縁のある憧れの人をモデルとし、企業での新人研究員からどのようなキャリアを積める可能性があるかを、入社前から思い描く。企業で自身が何を強みにして生きていきたいかを常に問い、その答えに従い行動していく。

 入社後も、その姿勢を変えずにトライを続ける。研究職に就くことがゴールでなく、次のトライをするための一つの機会でしかないことを理解している。学生の時分には知らなかった業務にも遭遇するが、その新鮮さが自身の好奇心を刺激しもする。予想外の業務も、それが価値を生むプロセスの一端であることを理解している。その中でも自身の強みをさらに膨らませ、磨き上げ、自分なりの視野というフィルターを通して仕事から新しい価値を生み出すチャンスを窺う。

 自分なりに生み出した新しい価値が学術的にも認められ、学位を取得する。「学術的知見から新しいサービス・技術応用を実現していく」その姿勢が、活躍を望む後輩の模範ともなる。

 3)
 修士課程に在籍中から、大学院教育や博士課程の在り方に疑問を持ちながらも、自身の希望するラボに所属し博士課程に進む。しかし、上司との関係を調整できず学位取得に苦労する。

 自身が学位取得に苦労する原因が、大学院教育や博士課程の在り方にあると考える。そのラボを離れて学位取得を目指したり、他に就職する道もあると分かってはいても、そのラボで何とか学位を取ることを望み、そのために努力をする。

 心の中では、博士課程への進学を無邪気に勧めた先輩を少しは恨んでいる。後輩のキャリアマネジメントの企画に足を運ぶと、博士課程の怖さの体現者として不安を語る。同時に、キャリアマネジメントの重要さを説く。その姿勢は、一部の後輩には「将来を見据えた判断ができておらず、それではキャリアマネジメントも失敗するであろう」と映るものの、一部の後輩には「視野が広い」と注目されることもある。後輩の不安のはけ口や受け皿も買って出る。自身が「研究以外の仕事」も価値を生み出しているのだと納得できたのは、研究職を離れた後のことである。

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 いかがでしょうか。

 言うまでもなく、上の3つの生き方に優劣はまったくありません。ただ、もし今あなたが大学院生か、もうすぐ大学院に進学する立場であるのであれば、自分はどのタイプに当てはまりそうか、どれに近そうかは考えてみても面白いかもしれないと思います。どこでどのような考えを抱いたら、どの道に進むことになりそうかも想像できるかもしれません。
 実際には何よりも、「どういう生き方をしたいのか」を意識し、理解できる範囲で理解することが、あなたの行動の効率を大きく上げることになるでしょう。

 もちろん、あなたの生き方の選択肢は上の3つには限られません。それはあなた自身が、少なくともある程度、自由に作っていいものであると思います。

 ・・・と、タイトルに「四例」と書きながら、まだ三例しか示していませんでした。最後に四例目として、私が今思い描いている近未来像を少しだけ書いておきたいと思います。

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 4)
 (前略)学術振興会の特別研究員を終えた1年後に、新しい研究課題が学術振興会の科研費(科学研究費補助金)に採択された。
 近い将来、自ら研究室なり研究所なりを立ち上げて、ある研究課題にトライしたいと考えている。形は問わない。課題を解決するための判断はあくまで、issue drivenでしょ、と思う。

 科研費も他の研究費も私自身に払われる給与も、すべて研究課題に頂いている投資であり、研究の遂行に対して頂いている対価であるという現実を、もっと理解したいと思う。投資には成功で応えたいと思うし、成功の可能性すら見出すことができなければ投資を受け続ける資格もないことを、もっと理解したいと思う。
 あくまでissue drivenでプロジェクトを組み立て、そのissue(課題)解決のための道筋で投資を呼び込みたいと思う。そして、解決という解と価値の創造、それで得られる対価という形で投資に応えたいと思う。民間からの投資は、知見や技術という解で。国家からの投資は、産業の創造と収入の獲得を経た納税という形で。

 遅くても5年後には、最低でも今の20倍の規模でプロジェクトを動かしたいと思う。そのためには、もっとしっかりと構想を練らなくてはならない。様々な強みを持つ仲間も必要だ。5年後までにそれができなければ、いま私の望む形で私のトライしたいissueに解を見出すことは実現できないと覚悟している。7ヶ月余り後には、私も30歳になるのだ。
 そのissueに挑む方法が色々あるであろうことは、よく考えておきたいと思う。それも、なかなか楽しそうだ。

博士課程で特別研究員(学振)として活躍するために(2012年4月23日)