身近な問題を科学的に捉えるために-上田昌文さん(市民科学研究室)

 先日(2012年6月末)、市民科学研究室・代表の上田昌文さんに、お会いする機会がありました(少しだけでしたが)。
 上田さんは、日常生活に伴うリスクと社会が相対するためには、これに係わる身の回りのものをもっと定量的に捉える必要がある、とおっしゃいます。また、「消費者の代表と研究者が前もって議論することが必要である」とも主張されています。

 私自身もそういった場が必要ではないかと、私も大学院に進学した頃(6年ほど前)から漠然と考えてきました。しかし、上田さんは20年も前から、これを実現するための活動をなさっていたとのこと。最近まで私がそれを存じ上げなかったことは、少し恥ずかしくもあります…。

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市民科学研究室
代表:上田昌文さん
1992年設立
2005年~特定非営利活動法人
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 上田さんは、ご自身のお仕事の一部を「リビングサイエンス」という言葉で表現されています。これについては、他のブログで取材記事のエントリとして紹介されています。(→こちら

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 社会との接点で技術が引き起こす問題に対しては、研究が手薄だったり、大学の研究でも抜けていたり、市民の視点に立って問題化されていない。
 そこで、科学技術の先端にも切り込める市民を育て、一般市民の生活の視点から科学技術の問題に取り組みたい。
 (※上田さんのおっしゃる「市民科学」「リビングサイエンス」については、→こちら。)

 ものを定量的にとらえることが、どれぐらい日常でできるだろうか。
 「リスクはないですよ」と、安心させたいなら測らないといけません。しかし、それがなくてものをいっている人がいっぱいいるのが現状なのです。
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 上の取材エントリ“その2”では、リスクコミュニケーションの課題や、日常生活の中のものの定量化の過程で起こった問題についての考えが紹介されています。

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 (日常生活の中のリスク物質の定量化の際に、実際に問題になったのは、)個人にデータを戻すなどのルールを文書化して残していなかったこと。
 政府なり責任ある機関がどう動いたら、人びとが本当の意味で的確に反応して安心感をもって対処してくれるのか、ということの見通しが甘すぎます。
 科学者はデータをいじることは上手ですが、メタにデータを解析できる視点がありません。また、どう公表したらどういう意味を社会にもたらすのかという考察をすることもしていません。そこにふみこんできっちりすることが市民科学です。
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 そして、取材エントリ“その3”では、リスク教育の課題から、科学研究のシステムの問題についてまで述べられています。

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 (どんな立場の人であれ、)データなしにものをいっているということは、リスクコミュニケーション的にも重要な問題である。
 問題が起きたときに、受け止める側の視点をどう捉えて対処するかの整理が不足している。
(※上田さんの意図を推測しながら尊重しつつ、元エントリの原文から若干変更させています。)

 科学者・研究者に、政策形成や科学技術研究開発のシステムを知ってほしい。
 (研究成果を)公表するには全体構造がわかるように、かつ、内部の関係者がはっと感じるよう、工夫しないといけません。そうしないと相手と話ができなくなってしまいます。

総合科学技術会議
科学技術基本計画文部科学省
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 市民科学研究会は、先進技術の社会影響を評価する独自のプロジェクト「i2TA」を進めています。その中で実際に、報告書「フードナノテク 食品分野へのナノテクノロジーの応用の現状と諸課題」(2011年2月10日)では、次のようなことにまで言及されています。

市民社会・消費者団体の懸念
・情報提供側の質の改善
・企業の懸念とそれへの対応
・消費者・社会と技術の対話-参加型TA


 i2TAの報告書では、安全性評価や管理・規制に関する議論の他に上の4つの内容を含んでいる点に、プロジェクトの独自性があるものと思われます。ただし、現時点ではi2TAの報告書でもこの部分の記述は多くなく、具体的な策への言及もまだ少ないです。やはり、ここが未解決の課題なのでしょう。

 この点については、私自身も今年の科学教育学会(2012年8月)で発表した研究をさらに発展・応用させることで、少しでも貢献したいと思うところです。

 上田昌文さんには、また機会を頂いてお話しさせていただきたいと思っています。

●市民科学研究会ウェブサイトは、→こちら