参加報告-工業ナノ材料の特性評価・リスク評価手法に関する国際シンポジウム

 2011年9月29~30日、東京の竹芝で開かれた「工業ナノ材料の特性評価・リスク評価手法に関する国際シンポジウム」(NEDO独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構主催)に参加してきました。

 シンポジウムでは、NEDOの「ナノ粒子の特性評価手法の研究開発」プロジェクトの成果として、主に以下の内容が報告されました。

(1) ナノ材料の試料調製と計測法を確立し、“手順書”として公開したこと
(2) ナノ粒子の吸入曝露系を含めた実験系によりその曝露のリスク評価を実施したこと
(3) 吸入曝露系以外の簡便手法を用いて、曝露によるリスクの材料間比較を実施したこと
(4) 無毒性量の導出と作業環境における許容曝露濃度(時限)の試算(*)をしたこと (*ここでは“試算”と表現させていただきます。)


 とくに、(1)で「試料調製や計測(モニタリング)の手法を標準化して示したこと」は高く評価される点かと思います。中でも、次の2つはとても興味深いものでした。

電子線エネルギー分光透過型電子顕微鏡(EF-TEM)法: 生体試料中に存在する炭素材料の局在や結晶状態の解析を可能にした。(定量的なデータを得るのは困難。また、“手順書”中での記載はなし。)
酸-加熱分解処理および燃焼酸化赤外分光(燃焼酸化式全炭素分析)法: 生体試料中のカーボンナノチューブ定量的解析を可能にした。(微細な局在についての情報は得られない。)

 生物の体には炭素原子が多く含まれていますから、その試料の中にある炭素材料を検出しようとすると工夫が必要になります。上の2つは、生体の構成成分と炭素ナノ材料の特性とを生かした炭素材料の検出・計測法として非常に興味深いです。2つ目の方法による定量の正確性については、今後も注意深い検討が必要であるとは思われます。しかし、それでも“手順書”にまとめられた内容の価値が高いことに変わりはないでしょう。

 また、(1)の試料調製法に基づいた吸入曝露系(2)が作られ、その詳細が手順書で紹介されたことも意義のあることかと思われます。

 一方、(3)(4)のリスク評価についてはエンドポイント(評価指標)が限定的であったように思われます。これについては、“リスク評価書”がプロジェクトから公開されていますが、その内容は、既存の情報から考えられる最低限のリスクの評価をした結果に留まるものです。そのため、(4)で算出された無毒性量や許容曝露濃度(時限)についてここでは“試算”と表現させていただきました。
 この算出値については、講演者からも今後出てくる科学的知見を基に今後10年間以内に見直しを行うことの言及があったので、それが行われることが期待されます。

 “リスク評価書”にはこのような課題があると思われますが、その中で報告された「暴露評価」(実際の作業環境における実際の工業ナノ粒子の曝露濃度がどの程度であるか)は高く評価されるものであると思われます。プロジェクトの内外で出されたデータが、詳細によくまとめられた内容になっています。

 シンポジウムに参加した2日間は個人的にも、会場でプロジェクトの先生方とお話させて頂き、とても勉強になりました。我々の研究成果の報告についても頂いた重要な示唆やリクエストは、私たちの今後の研究の方向性を定める上で助けになりそうです。
 大きなプロジェクトを遂行された各担当の方に、ここに敬意を表します。

リスク評価の方法(書籍紹介)と私の考え(2011年10月7日)
ナノ粒子の健康リスク‐国際シンポジウム・論文発表報告-ナノ粒子の胎児期曝露により腎組織に生じる影響など(2011年8月11日)



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●本シンポジウムの開催概要
 工業ナノ材料の特性評価手法、暴露評価手法、有害性評価手法及びこれらの手法を用いたリスク評価手法の確立を目的としたNEDOの「ナノ粒子の特性評価手法の研究開発」プロジェクトは、中西準子プロジェクトリーダーの下で、OECDと連携しながら多大の成果を上げ、平成22年度に終了しました。カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン(C60)及び二酸化チタン(TiO2)ナノ粒子のリスク評価書をはじめとする成果を国内外に発信するための国際シンポジウムを2日間にわたり開催します。
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http://www.ech.co.jp/nanopj_sympo2011/index.html