博士号を取る時に考えること・取った後にできること

 ここでは、標題の書籍を紹介します。そのタイトルは「博士号を・・・」ですが、博士課程に進む人に限らず大学院生に意識をしてほしい内容が詰まっています。



 著者は本書の中で、博士号「Ph.D.」が研究に従事する者としての「姿勢」あるいは「業績」の証(p.15)であるということを繰り返し述べています。そして、博士号を持つ者に対して、研究者としての一般的な素養を活かすことにより様々な分野で活躍することの期待を表明しています。

 著者の執筆の最大の動機は、本書中に示されている博士号取得者の自己評価のアンケート結果から浮かび上がった、次の問題であると思われます。

 ・・・何より問題視されるのは、(ポスドクによる回答のうち)「研究マネジメント力」が「未修得」という回答が非常に多かった(42.6%)ことである。(中略)このアンケート調査結果は、大学院時代、特に博士課程時代をどこでどのように過ごすべきかという強烈な問題提起をしている。(p.38)

 皆さんは、これを見てどのように感じるでしょうか。

 本書ではこの問題点を指摘した上で、博士に求められるスキルとして大きく次の4つを挙げています。

1. 戦略的思考力
2. 問題発見・解決力
3. コミュニケーション・スキル
4. プロジェクト・マネジメントのスキル


 以下に、本書からいくつかとくに心に止めておきたい文を紹介します。各々の言葉に真新しさはないかもしれませんが、それでも標題についての本質を突いているでしょう。
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2. 問題発見・解決力
問題発見の本質とは「解くべき重要な課題をいかに効率的に設定するか」(p.52)
戦略とは何をやらないかを決めること(p.60 <- p.47)
時間を含む有限な資源から最大の成果を生むことがマネジメントの本質(p.60)

3. コミュニケーション・スキル
第一に中身、第二が構成、第三でようやく表現(p.67)
プレゼンテーションで最も大事なのは、発表者の主張とそのロジック(p.68)

4. プロジェクト・マネジメントのスキル
限られた資源や制約条件下においていかにリターンの期待値を最大化するか(p.72)

 私がとくに同意し強調して訴えたいのは、「1. 戦略的思考力」の最後に書かれていた次の内容です。

 多くの大学院では・・・戦略的思考やマネジメント力を体系的に育成しようという機運にはまだまだ乏しい。(中略)
 マネジメント教育の姿勢にも問題が多い。ある研究室では、修士(博士前期)課程の最初にもれなく研究テーマが与えられ、快適な実験環境のもと、一終日ラボにこもり、時間無制限に目先の課題に取り組むのだという。少なくない大学院にみられるこのような至れり尽くせりの教育スタイルは、1を2や3に発展させるには最適だろうが、0から1を生み出すことには向いていないように思われる。Ph.D.に最も要求されるのは、研究課題を遂行する能力ではなく、創出する能力なのである。
(p.50)

 そして、そのような能力を持つ(べき)博士号取得者がキャリアを積む上で大切にすべきものとして、「幅広い見識」、「客観評価の利用」、「デッドラインの意識」を挙げています(pp.81-95)。
 私はとくに3つ目の「デッドラインの意識」が、簡単なようで学生が最も扱いを苦手とするところであるように思います。これはうまく処理できるようになると仕事の効率が大きく上がるので、多くの人が大学院内外の様々なトレーニングや経験によりコントロールできるようになってほしいと願うところです。

 もちろん、ここに紹介した文は本書のほんのわずかです。詳細は本著を是非ご覧ください。

記事紹介:大学院教育で何ができると人が育ったと言えるのか(当ブログ・2010年12月30日)
博士号を取ることの意味(当ブログ・2009年9月26日、他)