高脂肪食で育った父親の子に糖代謝異常

 『父親の栄養状態は子に伝わる』

 Letter
 Ng SF et al. (21 Oct 2010)
 Chronic high-fat diet in fathers programs β-cell dysfunction in female rat offspring.
 Nature 467: 963-967

 News & Views
 Skinner MK (21 Oct 2010)
 Fathers' nutritional legacy.
 Nature 467: 922-923

 高脂肪食によるカロリー過多で育った父親の子では、糖代謝の異常が生じることを示した論文です。

 過度に高脂肪食を取り過ぎることは、「血糖値が下がらない」「インスリンが効かない」という2型糖尿病発症の原因になります。(※ インスリンは血糖量を下げて組織の細胞中にエネルギーを蓄えるホルモンで、これが効かないと血糖値が下がらなくなります。)
 ここで、脂肪の多い食事を取りすぎたことで2型糖尿病になってしまった父親と、そうでない母親との間に生まれた子の糖代謝を調べたのがこの論文です。
 結果は、この子が通常の食事を摂った場合でも成長した後に糖尿病様の症状が出てしまうというものでした。具体的には、この子に「血糖値が下がらない」「インスリンが出にくい」という所見が認められたのです。


 この論文では、「父親の生活習慣が子どもの体にも変化を及ぼす」ことを示しています。これまでにも、「母親の生活習慣などが子どもの体に変化を及ぼす」ことは、具体的に「子どもは、胎児期に母親の胎内でさらされる環境に適応するような性質を持つ」などといった説と合わせてよく知られていました。

幼少期の生活・栄養と生活習慣病
 (本ブログ、2008年10月31日)

 一方で、父親の持つ要因が子どもに及ぼす影響についてはほとんど知られていませんでした。特に、父親が親になる前に生活習慣が子どもに影響を与えることを示したのは、この論文が初めてです。

 なぜ、このような影響が生じるのかというメカニズムはまだ明らかにされてはいません。「生活習慣と健康」については、まだまだ分からないことが多いのだということに改めて気づかされる論文でした。

※追記:Natureダイジェストでも解説されました。
 『父親の食生活が娘の健康に影響する?
 (Natureダイジェスト 2010年12月号 p.2)

※論文の内容は、ニュースとしてウェブ上に掲載されていました。
 『父の高脂肪食で娘が糖尿病? 豪州の研究チーム
 (毎日新聞、2010年10月22日)