タバコの出生前(胎児期)曝露と子どもの健康に関する知見

 今月上旬、初めての米国に飛びながら参加した国際毒性学会 PPTOXII。
 学会2日目に、妊娠期の喫煙と子どもの肥満との関連について、Michale Toschke氏による講演がありました。実はこのとき、他の仕事をしながら聴いていたので、講演の内容を網羅することができなかったのですが、「妊娠期の喫煙により子どもに起こる影響」はとても興味のあるところでしたので、論文を検索してみました。その結果を挙げておきます。

 それぞれの研究(実験)について、タバコの煙の「曝露方法は?」「曝露量は?」などといったことを十分に考慮に入れて、理解していく必要があります。それは今後精査し整理しなくてはならないと断った上で、以下にひと通り論文を並べておきたいと思います。


 Toschke et al.: Maternal smoking during pregnancy and appetite control in offspring. J Perinat Med 31: 251-56 (2003)
 今回の学会での講演者の疫学研究(英国)の論文。妊娠中の母親が喫煙すると、子どもの食欲中枢に異常が認められるというデータ。その変化の程度と、母親が喫煙した量との間に正の相関もあったという。

 Wu et al.: Prenatal and early, but not late, postnatal exposure of mice to sidestream tobacco smoke increases airway hyperresponsiveness later in life. Environ Health Perspect 117: 1434-40 (2009)
 タバコの副流煙の曝露を出生前 (maternal exposure) または幼少期に受けると、出生・成長後のタバコの副流煙に対する影響が発現しやすくなる(感受性が高まる)ことを示した論文。

 Avdalovic et al.: In utero and postnatal exposure to environmental tobacco smoke (ETS) alters alveolar and respiratory bronchiole (RB) growth and development in infant monkeys. Toxicol Pathol 37: 256-63 (2009)
 タバコの煙の曝露を出生前及び発達期に受けると、肺実質の発達に異常が起こることを示した論文。

 Mukhopadhyay et al.: Prenatal exposure to environmental tobacco smoke alters gene expression in the developing murine hippocampus. Reprod Toxicol in press (4 Dec, 2009; Epub ahead of print)
 タバコの副流煙の曝露を出生前に受けたときに、胎仔(マウス)の海馬において生じる遺伝子発現変動をマイクロアレイにより解析。遺伝子の機能的分類をすることによる “systems biology approach” を応用した解析も行っている。実際にどのような変化が起こっているかは、さらなる解析が必要。

 Breton et al.: Prenatal tobacco smoke exposure affects global and gene-specific DNA methylation. Am J Respir Crit Care Med 180: 462-7 (2009)
 胎仔期のタバコ曝露がヒトのDNAのメチル化レベルに変化を与えるかを調査したもの。

 Shankardass et al.: Parental stress increases the effect of traffic-related air pollution on childhood asthma incidence. Proc Natl Acad Sci U S A 106: 12406-11 (2009)
 自動車由来の大気汚染物質やタバコの胎児期曝露が喘息の発症につながる可能性は、親から与えられるストレス(喫煙、しつけ、ストレス等、アンケートにより調査)が大きいと高くなることを示した疫学調査。幼少期の “stressful households” が喘息発症の可能性を引き上げていることが疫学的に示されたことは、これが事実であれば驚き。


 このテーマに関する私の考えは、年明け(10日ちょっと後)の学位審査、さらに1ヶ月半後の博士論文公開発表会の頃までには、もっとまとめておきたいと思っています。


2009年12月5-15日 マイアミ(学会)・ボストンの記録