免疫細胞分化の新学説

Tリンパ球の兄弟はBリンパ球ではなく食細胞
-血液/免疫細胞分化の研究に
パラダイム転換を導く新学説を提唱-

理化学研究所


◇ポイント◇
・ 胸腺内の前駆細胞を1個ずつ解析、Tリンパ球の前駆細胞が大食細胞をつくると証明
・ Tリンパ球とBリンパ球に共通の前駆細胞は存在しない
・ 血液細胞の分化経路図を書き換える事実を提示
理化学研究所 プレスリリースより)

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 血液細胞の一部は、「免疫」の中で重要な役割を果たしています。免疫は、病気から自分を守るために、自分の中に侵入してきた病原体や異物を除去する体の力です。古くなって取り替える必要のある自分の組織(体の一部)を処理することもあります。体は、それ自身の中に、自分を侵し得るものを攻撃し、取り除く力を持っているのです。紹介したプレスリリースは、その免疫に重要な細胞が体の中でどのようにできるかについて、新しい考え方が報告されたものです。

 今、私が何とか解決したいと思っているものの一つに、「自己免疫疾患」があります。そして、昨日あたりから久しぶりに本を読む時間を取ることができ、『環境問題としてのアレルギー』という本を読んでいます。
 この本の中に、気になった一節がありました。自己免疫についてのものでした。その一節を紹介する前に、自己免疫について少しだけ説明をしておきます。自己「免疫」というくらいですから、当然、免疫に関係あるのですが・・・

 人など多くの生物は、免疫というシステムを体の中に持っています。このシステムでは、T細胞やB細胞といったリンパ球が重要な役割を果たしており、これらが病原体や異物を攻撃してくれます。しかし、ときに免疫のシステムは、自分に悪い影響を与えてしまうことがあります。代表的な例の一つが、アレルギー。また他の例が自己免疫疾患です。ここでは、言葉の厳密な定義は省略しますが、アレルギーは、異物を除去するときに同時に起こってしまう、自分に害となってしまう症状です。自己免疫は、病原体や異物に向けられるはずの攻撃性が、自分に対して向けられてしまう症状をさします。


 ここで、先に挙げた本の中にあった「気になった一節」を。それは、次のようなものでした。

 (本来、自分を攻撃してしまうリンパ球は自分を攻撃することのないよう、体の中で死滅してしまう。)しかし、ある程度の年齢に達してから自己抗体(自分を攻撃してしまうもの)の作られる場合がある。それが自己免疫疾患で、膠原病などが含まれる。自己抗体のできる理由はウイルス感染説をはじめ、さまざまな説があるが、よくわかっていない。


 この本は13年前に書かれたものなので、最新の知見が書かれているわけではありません。しかし、自己免疫疾患が「なぜ」起こるのかは、現在、まだ何も分かっていないのに等しい状態です。
 何も分かっていないといえば、免疫に重要なリンパ球自体、未解明なことばかりです。
 先ほど挙げた「T細胞」が発見されたのが40年前(1968年)。その代表的な一つの種類である「ヘルパーT細胞」が発見されたのが22年前(1986年)。他の種類も、ころころ呼び名が変えられたり。10年くらい前に使われていた「サプレッサーT細胞」という呼び名は今は使われず、つい最近、制御性T細胞という新しい種類が発見されたり。
 おそらく、この辺にはまだ知られていないものがたくさんあるのだと思います。そしてたぶん、その中に自己免疫の発生に関わっているものがあるのでしょう。

 初めに挙げた理化学研究所のレポートはNatureに掲載されたのですが、この辺にもそのヒントが隠されているかもしれません。


 Wada H, Masuda K, Satoh R, Kakugawa K, Ikawa T, Katsuta Y, Kawamoto H. Adult T-cell progenitors retain myeloid
potential.
Nature 452: 768-772 (2008)


 この雑誌の同巻には、他にも同じ分野の興味深い記事が並んでいました。

Graf T. Blood lines redrawn. Nature 452: 702-703 (2008)
・ Bell JJ, Bhandoola A. The earliest thymic progenitors for T
cells process myeloid lineage potential.
Nature 452: 764-767 (2008)


 こういうところに、病気を克服するためのヒントはたくさん隠されていると思います。このような新しい知見を産み出せることが、研究のやりがいだと思います。ただ、今いる患者さんに貢献することができないことが研究者の弱点であり、その点には不甲斐なさも感じます。
 それでも私は、リンパ球をはじめとする免疫についての研究が進み、アレルギーや自己免疫が克服できるようになることを望みます。


 最後に、途中で紹介した本についても書いておきます。

『環境問題としてのアレルギー』
伊藤幸治著(日本放送出版協会 NHKブックス、1995)

 

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