2010年9月9～10日、国立環境研究所にて行われた
日本免疫毒性学会学術大会に参加しました。
今回、私は初めて学会の座長を務めました。
2日目の朝にあった学生セッションで、
一つあたり10分の発表を4つ担当しました。
それはセッションとしては短い方で、
仕事量も決して多くはなかったのですが、
初めての学会での座長は良い経験になりました。
今日の昼すぎには、私自身の発表もありました。
いろいろと実験方法について確認できたり、
アドバイスをもらえたりすることができたので、
非常に価値のある収穫がありました。
以下、参加報告としていくつかの演題を
ここで紹介致します。
＜キーワード＞
・肥満細胞の生理と内因性NO
・TLRと自己免疫
・マクロファージとNrf2
・抗菌剤とIL-17
Plenary Lecture
Mast cells and their regulation:
Allergy, but so much more
- Innate to adaptive immunity
A. Dean Befus氏 (University of Alberta, Canada)
いわゆる花粉症やアトピーの発症に関与する
肥満細胞の生理と、内因性NOとの関連を
レビューした講演でした。
肥満細胞の膜受容体についての解説と、
そこにリガンドが作用した際に起こる
肥満細胞の応答の詳細が解説されました。
肥満細胞の膜受容体としては、
IgE抗体と結合するFceRがとても有名ですが、
他にもTLRなども存在し、それらが
肥満細胞の応答を制御しているそうです。
また、肥満細胞の応答においてNOが持つ役割に
ついても、明瞭な知見が得られているようです。
当然のことですが、IgEやヒスタミン遊離だけを
コントロールすれば花粉症やアトピーを
抑えることができるわけではありません。
「効かない場合はどうするか」
効かなければステロイドなどとするのではなく、
より良い治療法・対処法ができていくように
知見が活かされていくべきだと思います。
肥満細胞の生理について、総説の紹介が
一つあったので紹介致します。
Bischoff SC:
Role of mast cells in allergic and non-allergic immune responses: comparison of human and murine data.
Nat Rev Immunol 7(2): 93-104 (2007)
Special Lecture
自然免疫システムにおける病原体認識の
分子基盤とその制御機構
三宅健介氏（東京大学医科学研究所）
自然免疫の発現に重要な役割を担うものとして
Toll様受容体(TLR)がよく知られています。
TLRには、細胞膜上にあり菌体脂質などを認識するものと
小胞体上にあり核酸を認識するものとがあります。
ここで、当然ながら通常は、自己の核酸に対しては
免疫反応や排除機構が働かないようになっています。
一方で、このメカニズムが破綻した場合には
「自己免疫反応」が起こってしまうことになります。
近年明らかになり始めた、TLRと自己免疫との
関連についての新しい知見が紹介されました。
Symposium 2
マクロファージの抗酸化ストレス応答
－転写因子Nrf2と誘導タンパク質の役割
石井哲郎氏（筑波大学）
マクロファージは種々のストレスに適応し、
容易にストレス耐性になる細胞であるそうです。
マクロファージはストレスに応答し、
Nrf2を介して多くの遺伝子の転写を変化させます。
そのうちの一つとして、最近の研究により
sequestosome 1 (SQSTM1/p62/A170) と
呼ばれるものがあるそうです。
このSQSTM1は、自然免疫や代謝調節、
血管内皮などの恒常性維持をはじめとして
様々な役割を担っているそうです。
個人的には、Nrf2により転写制御を受ける
この遺伝子が、血管内皮の状態に関与していることに
とても興味を持ちました。
Oral Presentation 09
農薬200物質におけるレチノイド関連
オーファン受容体(ROR)活性の探索と
IL-17産生に及ぼす影響
小島弘幸氏（北海道立衛生研究所）
アゾール系抗菌剤はある細胞において
ROR活性を変化させ、この細胞からの
IL-17産生を抑制するそうです。
これは、驚くべきかつ価値ある知見かと思います。
＋ ＋ ＋
今回、同じ分野の学会が3つ
同時期に重なってしまっていました。
そのためなのか、学会参加者の数は
決して多くなかったのですが、
その分私に貴重な経験をできる仕事が
回ってきたことに、感謝したいと思います。
座長を務めた記念として、学会からは
4GBのUSBメモリを1本頂きました♪
