市販の解熱鎮痛薬(1)

市販の解熱鎮痛薬(1)
市販の解熱鎮痛薬(2)

一時期のバファリンAのCMでは、
こんなフレーズが流れていました。

バファリンの半分はやさしさでできています」

その意味を知っている人も、少なくないかもしれません。
胃が荒れることを防ぐ成分が入っていることを
意味しているのです。
最近のCMでは、こんなフレーズになっていますね。

「早く効いて胃にやさしい」

バファリンAは、私の実家に常に置いてあったので、
私にとっては一番親しみのある薬です。
しかし、解熱鎮痛薬には他にもいくつかの製品があります。
ここでは、それを比べてみたいと思います。

 

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バファリンA(ライオン)
<1回分(2錠中)の成分>
アスピリン 660mg
合成ヒドロタルサイト 300mg
※ 1回2錠(1日2回まで)
※ 15歳未満服用不可。

●小児用バファリンCII(ライオン)
<1錠中>
アセトアミノフェン 33mg
※ 1回3~6錠(年齢により調節、1日3回まで)
※ 3歳以上服用可能。

タイレノールA(J&J)
<1回分(1錠中)の成分>
アセトアミノフェン 300mg
※ 1回1錠(1日3回まで)
※ 15歳未満服用不可。

タイレノールFD小児用(J&J)
<1錠中>
アセトアミノフェン 50mg
※ 1回2~4錠(年齢により調節、1日3回まで)
※ 5歳以上服用可能。

 まず、バファリンの前に。だいたいの痛みは、重い場合を除いてだいたいタイレノールアセトアミノフェン)で効きます。バファリンA(アスピリン)やイブA(イブプロフェン)などよりも作用は弱いのですが、アセトアミノフェンでしたら胃を荒らす心配はほとんどありませんので、よろしかったら試してみてはいかがでしょうか。胃を荒らさないので、空腹時に飲むことも可能です。

 これに対して、バファリンAの主成分であるアスピリン(アセチルサリチル酸)は、消化性潰瘍の副作用があると言われています。アスピリンはCOX-2阻害によるプロスタグランジン(PG)の生合成を抑制し、鎮痛、解熱、抗炎症作用を発揮します。しかし、PGは胃の粘膜を保護する働きも持っているため、これを抑えてしまうアスピリンは、胃潰瘍などを引き起こしてしまうことがあるのです。そこで、これを防ぐために、バファリンAには制酸薬(胃酸を中和する薬)として合成ヒドロタルサイトが入っているのです。つまり、バファリンの“やさしさ”は、胃酸の酸性を弱めることでアスピリンの副作用を防いでいるのです。合成ヒドロタルサイトはアルカリ性なので、水や酸性条件下では溶けにくいアスピリンを溶けやすくして、解熱鎮痛の効果を早く得られるようにすることにも一役買っているかもしれません。
 しかし、いくら“やさしさ”が入っているとはいえ、これはアスピリンに消化性潰瘍を起こしやすい性質があるためですから、胃潰瘍を持っている人や、バファリンAを飲むといつも胃が痛くなるという人は飲むべきではありません。

 このバファリンAをよくよく見てみると、他にもいくつかの注意点が浮かび上がってきます。

1) 一部の糖尿病薬を服用している人の使用は望ましくないこと。
2) 腎機能が低下している人の使用は望ましくないこと。
3) 手術前(1週間)の服用は控えること。

 まず、3)から説明しましょう。
 先に書いたように、アスピリンは鎮痛、解熱、抗炎症作用を持っていますが、他にも多様な生理活性を示します。その一つに、血小板凝集抑制作用があります。この原因は、血小板中のPG産生の抑制であったり、COX-2阻害によりトロンボキサン(TX)A2の産生抑制であったりするのですが、とにかく、血小板の凝集が抑制されるということは、止血が抑制されてしまうのです。そのため、手術前には、抜歯程度のものであっても、その1週間前くらいはアスピリンを飲むべきではないと言われています。バファリンAの服用に際しても、これに従うのが安全でしょう。
 ちなみに、この血小板抑制作用を利用して、低用量のアスピリン狭心症心筋梗塞脳梗塞の患者さんなどの血栓予防のために実際に使われています。

 次に 1)ですが、これはスルフォニルウレア(SU)剤に分類される糖尿病薬(オイグルコン、アマリールなど)とアスピリンを同時に飲むと、糖尿病薬の作用が強く出すぎる恐れがあるためです。アスピリンもSU剤も、多くが血液中でアルブミンというタンパク質と結合するのですが、アスピリンはこの結合力が非常に強いのです。そのため、この2つを同時に飲んでしまうと、アルブミンの多くがアスピリンと結合し、SU剤はアルブミンと結合し切れないことになります。すると、アルブミンと結合できなかったSU剤が血液中に多く溶けている状態になり、その作用が強く出すぎてしまう、ということになるのです。
 糖尿病薬は、血糖値を下げる薬ですから、強く効きすぎると低血糖を招く恐れがあります。イブプロフェン(次回紹介します)等でも同じようなことが起こってしまうため、SU剤の服用している人がやむを得ず市販の解熱鎮痛薬を使用する場合は、やはりタイレノールが適切でしょう。

 そして 2)ですが、これはバファリンAに制酸薬として入っている合成ヒドロタルサイトが、アルミニウム製剤であるためです。腎機能が低下している人は、アルミニウムの排出能が低下しているため、アルミニウムが体内に蓄積されてしまうのです。アルミニウムの蓄積は、脳に悪影響を与えることなどが報告されているので、バファリンAは使用するべきではないでしょう。
 ちなみに、鎮痛薬でこの制酸剤が配合されているのはバファリンAとバファリン顆粒だけです(市販の胃薬にも入っているものはあります)。

 さて、ここで小児用の解熱薬の話に移りたいと思います。
 子どもがインフルエンザや水疱瘡などで高熱を出した場合には、子ども用の解熱薬以外は使用しないでください。そもそも、子どもが高熱を出した場合には、市販薬で済ませるのではなく病院に行くべきなのですが、どうしても市販薬を使わざるを得ない場合に使用できるのは、小児用バファリン、宇津こども熱さまし、タイレノールFD小児用あたりです。
 これらの成分はどれもアセトアミノフェンで、これが子どもの解熱の際の第一選択です。アスピリンは、ライ症候群やインフルエンザ脳症を引き起こす原因になる可能性が報告されていますし(この脳症は、脳血管損傷の修復に必要なPGの生合成が抑制されることにより起こると言われています。)、イブプロフェンは、子どもでの安全性がまだ確認されていないためです。
 病院でも、高熱の原因を確認した後に、おそらくアセトアミノフェンの解熱薬が処方されることと思います。アセトアミノフェンが効かない場合には、量を調節しながら、イブプロフェンを処方されるでしょう。とにかく、大人用の解熱鎮痛薬を少量にして使うことはしないでください。
 ちなみに、小児用バファリンの箱はオレンジ色です。バファリンAと同じ青基調の色だと思って探すと見つからないので、注意してください。

 最後に、妊娠中の解熱鎮痛薬の服用についても付記しておきます。
 妊娠中の場合も、市販薬の服用は避けて何かあったらすぐに病院に行くべきなのですが、やはり鎮痛薬などは、市販薬を使用せざるを得ない状況があるかもしれません。そういう場合、特に妊娠末期(出産予定日12週間以内)のアスピリンイブプロフェンの服用は避けてください。これらのPG抑制作用により、胎児の血圧が異常に上がったり、分娩・出産が遅れてしまったり、出血が止まりにくくなったりしてしまう可能性があります。そのため、妊娠中は末期に限らず、できるだけタイレノールなどのアセトアミノフェン製剤を使用することをお勧めします。ただし、とにかく原則として薬は必ず医師の指示のもとで使用してほしいと思います。

 市販の解熱鎮痛薬には、今回紹介したものの他にも代表的なものに、イブプロフェンイソプロピルアンチピリンといったスイッチOTCを主成分としたものもあります。スイッチOTCは、以前は医師の処方せんがなければ買えなかった薬が、市販の薬としても買えるようになった成分のことを言い、一般的に作用が強いと言われています。次回は、その薬を紹介しようと思います。


※ 市販薬を使う際には、薬に付いている説明もよく読んで使用してください。
※ 鎮痛薬は、痛みの原因を治すものではなく、痛みという症状を和らげる作用しか持っていません。痛みが長く続く場合には医療機関で診察を受け、市販薬の連用は避けてください。

市販の解熱鎮痛薬(1)
市販の解熱鎮痛薬(2)

 

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