ザルツブルグでの国際会議IPTC 2019に参加してきました

 2019年9月11~12日の2日間、オーストリアザルツブルグでのInternational Particle Toxicology Conference (IPTC 2019) に参加してきました。会議はもう一日、13日も続いていましたが、私は次の学会に帰国するため一日早く現地を出てきました。

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 会場だったザルツブルグ大学の美しいキャンパス。


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 会議のテーマは名前の通り「粒子の健康影響」。そのリスク回避のために取り得る行動を検討すべく、健康影響の分析や制御に関する情報を共有し、議論をアップデートするのがその目的です。

 「粒子の健康影響」の研究は、古くは炭鉱の労働現場における粉塵の問題に始まり、公害の経験を経て大気環境中の浮遊粒子SPM、微小粒子PM2.5へと進んできました。その後、このコミュニティは超微小粒子UFPsや人工ナノ材料と主要な研究対象を移しつつ、今また森林火災などによる粒子の発生や海洋マイクロプラスチックが人の健康や生態系に及ぼす影響と、新しい問題にも対応しようとしているようです。

 私は初日に、SWCNTが細胞内で遅れて局在シグナルを発するという独特の振る舞いを報告し、これを捉えていなかった先行研究との違いを議論しました。そして、生体におけるCNTの振る舞いを捉えるときにその化学修飾だけでなく硬さ (stiffness) や、制御が容易でないものの分散状態に注意を払うことの必要性を示してきました。

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 同じ日の夕方のポスターセッションには別の演題を出し、上の内容について議論を深めつつ、数年来の研究仲間が投稿準備中の論文を詰めるための情報を仕入れてきました。限られた時間を最大限に活用して、こちらが欲しかった情報や意見をもらいつつ、会議に参加している研究者の皆さんに新しい知見や観点を伝えてこれたと思います。

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 講演の中では、長年この分野の研究に貢献されている南アフリカのMary Gulumian先生の基調講演の内容が以前から大きくアップデートされていたことに驚き、その内容が私自身の関心とも接点があったので楽しく議論ができました。私はその点が鍵になりそうな実験データを持ちつつ、実証する方法が見つからずに手詰まり感があったので、オンラインでご指導を仰ぎつつ手元の仕事を新しい方向に進められればと考えているところです。

 講演ではもう一つ、この会議のcommitteeがオーガナイズしているオンラインジャーナルParticle and Fibre ToxicologyのEditor-in-ChiefであるFlemming Cassee先生が、国際空港周辺の環境と健康との関係について、粒子の発生源分析もしっかりと行いながら新しい研究結果を報告していたことにも驚きました。その内容は、一般大気環境にある粒子の健康影響を捉えるための知識と経験が濃縮されているものでした。すでに論文も公開されているようなので、読んでこちらも学びたいと思っているところです。

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 私は普段の研究を通して、これまで幸いにも、大げさでなく、自分の人生を豊かにしてくれていると思うものにいくつか出会えています。そしてその一つが、このコミュニティにわずかながらでも参加し続けられていることであるということも、今回この会議に参加してきて改めて感じました。

 このコミュニティには、人それぞれの関心や直面する問題に寄り添いながら、長く多彩な研究の経験に裏打ちされた意見を惜しみなく提供してくれる何人もの先生、研究者がいます。研究とは何ぞやをまったく知らない頃の私は、研究を通してそんな場に出会えるとは思っていませんでした。大学院に進学した頃は、研究を通してそんな人たちとコミュニケーションをとって自分の興味や考えを深めたいと思っていましたが、そんなコミュニケーションをこれほどまでに続けられる場に会えるとは思っていませんでした。

 この2日間でも、専門分野を異にする研究者と新たにつながりることができたので、もちろんすべてが上手くいくわけではありませんが、それを大切にして次にまたこの人たちと会えるときを楽しみにしたいと思います。そしてそのときにまた、自分だからこそ示せるかもしれない次の新奇な観点を投げかけることができるよう、できることをしっかりやっていきたいものだと思います。

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 9月13日、帰りのミュンヘン空港 (München Flughafen) に向かうために出発した早朝のザルツブルグ中央駅 (Salzburg Hauptbahnhof)。

 ちょうど私が出発したとき、ホテルから市街地に抜けるトンネルの歩道が大掃除の最中で、10分ほど時間を喰ってしまいました。そのために予定の列車(6:15発)に乗り遅れ、次の6:27発に乗ろうと思ったらそれは1時間40分遅れ。

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 乗ったのは予定より30分遅れの、6:46発。停車駅やや多め。

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 もうこの列車があと5分遅れたり、München Ostミュンヘン東)駅から空港行きに乗るのに10分待ったりしたら間に合わなかったかもしれないと焦りながらの旅程で、車窓からの景色をゆっくり楽しむ気持ちでなかったのが心残りですが、

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 飛行機出発時刻の40分前に空港に着き、無事に乗ることができました。ギリギリに着きながらこんな写真を撮ったのかというツッコミは甘んじて受けます。オンラインチェックインの便利さ様様です。

 ミュンヘンから日本の直行便は今回のタイトなスケジュールに合わなかったので、フランクフルト乗継で帰ります。でも、40分前に着いた空港でpassport controlがあったら飛行機に間に合わなかったかもしれないので、ミュンヘンから乗るのがEU域内の便で良かったかもしれない、ということで。もうちょっと気をつけないとな。

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