最後は参加者のcontributionがすべて、だけど企画設計は大切

 ひと仕事おしまい。縁あって、「戦略的連携を目指した研究交流の展開」と題した二大学合同のシンポジウム(→これ/こちらでも)の企画を担当していました。互いが他方の持つ学部・研究科を自身で持たないため、大学を挙げた異分野連携という位置づけの取り組みです。その当日を先週末、無事に終えてきたところです。
 (大学HPでの開催報告は→こちら=2015年12月17日)

 目的を見据えたイベントの成否は、言うまでもなく当日の参加者がどう「参加」できたかで決まります。その意味で、好評をいただいた今、来場者一人一人が貴重な時間を割いて人が集まってくれて活発に「参加」してくれたことに感謝するばかりです。

 学術的なものを含め様々な企画の立案・設計には、色々な立場で試行錯誤してくれる人がいます。私はその立案・設計、すなわち場づくりを本職にしておらず、仕事の片手間にときどき関わっているだけです。が、立案・設計がどうしたら良くなるかの流れを知っておくのは、分野や業界、ひいては世界の方向性すらも変えることにもつながることです。そこでここでは、企画設計プロセスの鍵になるポイントと思われるものを、簡単に書いておくことにしました。

 と言っても言葉にしてみると、当たり前なことばかりです。しかし、私自身今後も何かの企画を設計したり参加したときに、結果としてうまくいかなかったなー、消化不良だなーと思ったときなどにこれを振り返ると、良いフィードバックができることもあるんじゃないかと思ったりするわけです。

 というわけで、当たり前なことばかりですが、いざ。

 ①どんな人に「参加」してほしいのか
 イベントの目的は、あるときは「ただ集まって同じ場所で同じ時を過ごすこと」かもしれません。しかし、大概の場合はただ集まることが目的ではないはずです。それを前提とすると、参加者とある程度「集まってどうするのか」という目的を共有する必要があります。イベントが何を目的として見据えているのか。核となるテーマは何なのか。それを明確に伝える準備をしなくてはいけません。

 ②その目的をいかに「参加」してほしい人に届けるか
 イベントの目的が明確になれば、次には逆に、その目的に共感してくれる人に当日「参加」をしてもらわないとイベントが成り立ちません。そこでどうやって、共感してくれる人、共感してくれそうな人にその目的を届けるかがポイントになります。副題にするなり、案内に見やすい形で入れるなりして。またそのイベント企画が、「参加するかどうかを迷いそうな人にどう映るか」という視点も入れると、イベントにより広がりができると思います。

 ③目的を果たすために、どう企画を設計・表現するのか
 目的がはっきり言葉になれば、いよいよここが肝です。来場者にどう来てもらうだけでなく、どう「参加」してもらうのか。
 講演会なのか、講演後のディスカッションなのか、討論ではどんな人にどのタイミングで・どんな割合で発言の機会を振るのか、参加者同士や登壇者との距離はどうなるか。それともワークショップなのか、ポスター形式なのか、ポスターはどう配置するのか、そもそも各参加者の情報(ビジョン、技術、問題意識)をどう共有できるようにするのか。想定する参加者層がどの形式に馴染みがあるのか、それとも新しい形式を試みるのか。
 プログラムの各要素の時間は。短すぎて情報が共有されなくても、長すぎて間延びしてもNGです
(個人的には短めにして、時間当たりの生産性を上げるのが好みです)。各要素のタイミングは、プログラムの時間的余裕(buffer time)はどうか。
 当日の現場を想像しながら多くの選択肢を揃えられる人が企画側にいると、様々な成果を上げる可能性が広がることになります。なお、各要素の長さや配置すべてに意味があるということも知ってもらえると、イベントを設計した人はきっと喜びます。

 なお、ここまで設計してみてから、副題や案内状を見直すことが必要な場合もあるかもしれません。

 ④すぐには見えない可能性を伸ばすために
 なぜイベントが求められるのか、というイベントの存在価値とつながる話です。ある有意義な目的があったとしても、それを促すイベントが常に必要であるわけではありません。
 イベントは、それが無くては自然に生まれにくい関係を生んだり、無くては自然に解決しにくい問題に解決の道筋を見つけることこそが期待されます。なので、「なぜそれが自然に生まれたり、なかなか解決したりしないのか」を考えて、イベント設計に反映させることが必要です。

 乗り越えたい問題の一例として、人が自身の中で当たり前になっていることは言葉にされづらい、ということが挙げられます。居場所(分野、業界、国や地域、部署、などなど)の異なる人たちが一堂に会するときに、互いになかなか言葉に表されない部分があることが、当人の望む出会いすらも妨げてしまうことがあります。そういった、自発的には言葉にされにくいものの言語化をどう促すかとか、どう見える形にするかという工夫が、イベントに期待されるのではないかと思います。

科学技術界のグローバル化を「ガチ議論」@第55回生化若手夏学(2015年8月30日)

 ⑤その企画をいつ実施するのか
 そこの場にどんな人に「参加」してもらいたいのか。彼らが参加しやすいであろう日時を選ぶ必要があります。可能な限り(しかし、決める基準を明確にして決定が遅れないようにしながら)当事者や立場の近い人の意見を聞き、曜日や時間帯を絞っていく場合が多いと思います。

 ⑥その目的と企画内容を、いつ届けるのか
 どうしても「参加」してほしい人に、このタイミングで言われてもちょっと遅いよ、難しいよ、と言われないように、告知や案内を予定立てする必要があります。企画内容の調整には時間がかかることも少なくなく、これがしばしば企画する者をヒヤヒヤさせます。来てほしい人に、企画の存在が目的と合わせる伝えるタイミングを逃さないことが大事です。

 ⑦協力・支援者に何をお願いしたいのか
 企画に賛同し、協力・支援してくれる人の存在はあまりにも有難いもの。感謝は尽きません。一方で、協力・支援者が何をしようとしてくれているのか/できるのか、そして、逆に彼らに何をお願いしたいのかを明確に伝えることも必要です。

 ⑧最後は参加者のcontributionがすべて
 目的に共感してくれる人が集まりさえすれば、あとはその目的を共有しながら自由に「参加」してもらうのみ。目的を共有できる「参加者」にその場へ集まってもらうため、ここまでのすべての準備があったわけですが、それがどの程度うまくいこうともいかずとも、最後は当日の運営を一生懸命やるのみ、楽しむのみです。そして多くの場合、当日に人が発揮し得るパワーの大きさを実感することになります。
 事前の工夫が功を奏するとも、努力が報われるとも限りません。しかし、本気で取り組んで工夫や努力は自分の身になってくれるもののような気がします。

 終わったあとは、前に立った者ならではの反省や不安に駆られることも常ですが、いま次にできることにこだわることも大切である気がします。

 企画の設計で鍵になるポイントで、いま思いついたのはこんなところです。



 写真は、先週末の会場(東京理科大学 葛飾キャンパス)の前から。2日前に最後の現地準備に来てこの存在を知ったとき、学外からの人を招きがいがあると嬉しく思いました。そして、当日来てくれた人もそう思ってくれたと思います。

 参加者(私を含め)それぞれが得たおトクが、実を結ぶことを願いつつ。