博士課程で特別研究員(学振)として活躍するために

 先日、日本学術振興会の特別研究員の申請者に向けてお話をさせて頂く機会がありました。特別研究員への申請書を書く人にとって、この分量の研究計画書を書くのはおそらく初めての場合が多いでしょう(私もそうでした)。以下、そんな場合に申請書を書くにあたって留意したら良いと思われることを紹介しました。

 『特別研究員として、そしてその後も活躍するために』(梅澤雅和、2012年4月19日、@東京理科大学

特別研究員への応募申請時に留意すること
★「誰が/何が、どうする/どうなることに働きかけたいのか」→自分は研究で何をしたいのか
・どういう研究者になりたいのか
・どの領域に応募するか

申請書作成の注意点
★ポイントが“一目で”視覚的に伝わる工夫を
・適度に余白、適切に改行を
・強調は太字・ゴシック、アンダーライン
★統一感
・“これまで”から“これから”をどのように展開しようとしているのか
・研究方法にも具体的な記述を
・自分の研究計画の特徴は何なのか

特別研究員採用後について
・成果で評価されることへの意識
・次のポストでどのような仕事をしたいか、どのように仕事をしたいか
・様々な人に伝えられる力を

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特別研究員への応募申請時に留意すること

⇒「誰が/何が、どうする/どうなることに働きかけたいのか」
 ・・・「何に留意したらいいのか」と訊かれたときに私が答えたいのは、一言にしてこれですべてです。
 言葉を変えると、「ある分野、もしくはこの社会の『どこに』、『どのような課題/問題』があると思っていて、そのうちの『どの部分』を解決するための知見を、自分の研究で示したいのか」。これが「自分は研究で何をしたいのか」という問いに対する答えであり、申請書に表現できるといいことでしょう。
 自身の課題意識が、申請書に首尾一貫して示されていること。その課題意識を自分の言葉で、研究の背景・目的・方法から“予想されるインパクト”まで首尾一貫して示すこと。研究計画をもって何かに応募する申請書では、これが一番大事になるでしょう。

⇒「どういう研究者になりたいのか」
 特別研究員への応募書類では、「自己評価欄」というものがあります。自分がどのようなことを経験したことがあり、どのようなことを考えていて、特別研究員としての仕事を通してどのような研究者になりたいのか。もしくは、研究を通してどのような仕事をできるようになりたいのか。この欄には、そんな想いを表現できたらいいでしょう。
 特別研究員に応募する方は、この規模の応募書類を書くことが初めてという人が多いと思います。それを書くにあたり、研究者としての自己とよく向き合って、この自己評価欄も書くといいでしょう。それは、今後の研究(者)人生にも生きるものになると思います。

⇒「どの領域に応募するか」
 これは私もいつも判断に悩む難しい点で、信頼できる先生と相談しながら選択しています。この選択を誤ると、申請した研究計画が評価されないという結果を招きます。自分の研究内容、計画、業績を最も評価・理解してくれるのはどの領域なのか。それも、申請時に考えなければならない点です。

申請書作成の注意点

⇒「概要やアピールポイントが“一目で”視覚的に伝わる図(表)を」
 比較的枠の大きい「現在までの研究状況」、「研究目的」、「内容」には、図や表で伝えたいポイントを視覚的に伝えることが有効です。申請課題を説明する文は、長ければ良いというものではありません。もちろん、文の内容が薄くては良い結果は期待できませんが、“枠を埋める”ために文章を冗長にすることは賢明ではないでしょう。それよりも、申請課題の核となるコンセプトやビジョン、実験方法などを明示する図や表を入れられると、エッセンスが評価者(読み手)により良く伝わります。
 とくに、私は申請書の1ページ目を、「まったく文を読んでもらえなくても初めに図さえ見てもらえれば、自分の主張が伝わる」ように作ることをいつも心掛けています。

⇒「適度に余白、適切に改行を」
 あまりに字が詰まっていると、評価者の読み手にとって読みにくく、評価しづらい申請書になってしまいます。もちろん、あまりに余白ばかりが多くても良い結果は期待できませんが、適度に余白をとって読みやすい申請書にすることを心掛けましょう。
 また、伝えたいポイントを複数並列したい場合には、これを箇条書きにすることも有効です。これにより、余白が確保されて読みやすくなる効果が期待できる場合もあるでしょう。

⇒「強調は太字・ゴシックや、アンダーライン」
 強調をするのに太字(ボールド)は有効ですが、明朝体のままで太字にしても、印刷したときに強調されているように見えなくなってしまう場合が多いです。太字で強調する部分は、併せてゴシック体にすると効果的です。
 また、強調フォントは太字・ゴシックの他に使うとしたらアンダーライン(下線)くらいでしょうか。文字装飾が多すぎると、かえって強調したい点や重要なポイントが見えなくなったり、文章自体が非常に読みづらくなったりすることに注意が必要です。

⇒「申請書全体に統一感を」
 私は自分で申請書を書くときに、いつも“統一感”という感覚的な部分も重要視します。それは、具体的に挙げると次のような点についてです。
 1)サブタイトルの付け方、2)図の並び、3)余白の入れ方、4)強調フォントの使い方、5)図中の色の使い方。内容の首尾一貫性だけでなく、これらの点での統一感も、評価者である読み手に読みやすさと安心感を与えるでしょう。

⇒「これまでに自身で得たデータやアイディア・考えから、どのように研究を発展させようとしているのか」
 申請書には研究課題の概要や計画だけでなく、「これまでの研究の状況」を書く欄があります。申請時にはこの欄を使って、“これまで”からどのように“これから”を展開しようとしているのかを表現できるかどうかがポイントになります。
 これまでの自分の研究を簡潔に解説した上で、「そこで自分の得たデータやアイディア・考え方の何が」これからの研究計画を形作っているのか、自身の考えや計画とよく向き合って考えましょう。

⇒「研究方法にも具体的な記述を」
 そのままですね。一つ上の項と合わせて、実現の可能性を読み手(評価者)に感じさせるためのポイントであると思います。

⇒「自分の研究計画の特徴は何なのか」
 申請書には、先行研究や関連する他の研究がある中で、自分の申請課題の計画には「どこに・どのような特徴があるのか」を明示することが求められます。関連研究がある中での自身の研究課題の特徴を、研究者はフェアに評価できるようになることが求められます。申請書を書くときにもこれを心掛ければ、自身の研究計画をより価値のあるものに練り上げられるでしょう。

特別研究員採用後について

⇒「自分が成果で評価される」ことを意識すること
 研究者は必要条件として「成果」で評価されます。成果は、日頃の研究が生み出す価値の積み重ねにより生まれます。自身の研究が日々生み出している価値に敏感になりましょう。

 ※論文が書けなくてはいけないのか(2012年11月16日)
 ※科学者としての評価と科学としての評価とは違う(2012年12月14日)

⇒「次のポストでどのような仕事をしたいか、どのように仕事をしたいか」を意識すること
 特別研究員に申請する人にとって、それが採択されることは一つの目標であると思います(私も、2008年秋に内定を頂いたときは嬉しかったです)。しかし、それはゴールではありません。その後に自身がどのように仕事をしたいのかをイメージしながら、自分の関心の周囲にあるものに意識を置いてほしいと思います。
 この「自分の仕事や関心と今は直接はないけれども、すぐ隣り合わせに広がっているであろう世界」を私は大切にしています。いま自分が専門にする分野の“周囲”や“隣”に、自分の仕事にさらなる価値を付けてくれる可能性があると思うからです。そこに、自分の仕事をさらに発展させるチャンスがあると思います。
 この点は最近本当に大切にしていて、もっともっとここに書きたいこともあるのですが、長くなるのでまた別の機会にします。
(→2013年6月1日、少し書き加えました。

⇒「様々な人に伝えられる力を」

 研究の意義を、様々な人に伝えられるようになってほしいと思います。自分の研究を理解してくれるのが同じ研究室の人だけでは、自分で持てるチャンスが狭くなるのは容易に想像ができるでしょう。これは、「同じ分野の人にしか伝えられない」、「同じ業界の人にしか伝えられない」場合にも同じことが言えると思います。
 もちろん各々の人に取捨選択をする権利がありますが、「様々な人に」伝えられた方がそれだけチャンスは広がります。自分が誰かに主張を伝えたいと望んだときに、いつでもそれをその相手に伝えられるようにしたいと思ったら、そのために準備やトレーニングは必要です。
 日頃から、「自分は自身の研究のこれまでの成果をいつでも伝えられるか」、「これからの計画を表現できるか」と自問できたら、それは有意義なことだと思います。

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 私は3年前(2009年)の4月からDC2として2年間、昨年(2011年)の3月まで、日本学術振興会の特別研究員として研究をさせて頂きました。学術振興会や大学のサポートを頂き、私は研究生活の“基礎の基礎”をこの期間に築くことができたと思っています。学会発表から共同研究を立ち上げたり、企業に研究計画の提示などをできるようになったのもこの時期からでした。
 何より、私が特別研究員として研究をさせて頂けたことは、私の関連分野内外の人との交流や研究の進展を強く促してくれました。今後も、有意な若手研究者がその発想や行動のサポートを受けるチャンスを得て、素養の高い研究者が多く生まれてくることを強く期待しています。

 ●「示したいこと」リスト(4つ)(2014年6月25日)
 ●覚悟をもって挑む(2013年4月24日)