行政刷新会議「事業仕分け」に対するアカデミア研究者の反応

 2009年10月24日(*)、アカデミアの研究者コミュニティに激震が走るニュースが飛び込みました。(*もっと早かったようにも思うのですが、すみません、未確認です。)

 『科学研究費補助金の一部の執行停止』

 具体的に執行停止されたのは、以下の予算でした。
・新学術領域研究(研究課題提案型) (文科省
・若手研究(S)
・優秀若手研究者海外派遣事業(常勤研究者)
・優秀若手研究者海外派遣事業(特別研究員)
・組織的な若手研究者等海外派遣プログラム

 2009年11月に入り、日本政府の行政刷新会議による「事業仕分け」が始まりました。同時に、政府への意見の公募も始まりました。

 例: 文部科学省行政刷新会議事業仕分け対象事業についてご意見をお寄せください」(2009年11月16日)

 アカデミア研究者にとっては、「国民の幸福、国家の発展のために必要な研究とは何か」、「それを行う研究者とは何か、研究者はどうあるべきか」について、改めて考えさせられる契機にもなっている側面もあります。

 しかし、予算編成に至るのは2009年12月15日ということで、意見は政府に伝える必要がありました。行動は待ったなしといった状況です。一方で、その行動を意味のあるものとするために、どのように行動すべきかということは、短い時間でもよく考える必要があります。

 基礎研究の推進になぜ国家予算が必要なのかということを、研究をする側の考えではなく、全体(社会、国民、国家)の利益という観点から、考え(意見)を示す必要があります。予算が必要だと声を上げるは、どの分野・業界でも同じことでしょう。「『なぜ』『ここに』必要なのか」「『どのように』必要なのか」を、しっかり示す必要があるのです。
 中途半端(政策的にレベルの低い)提言で効果を上げることは期待できません。また、おそらく多くの(少なくとも、複数の)個人的な意見が政府に送られている中で、まとまった考え方をどのようにしたら効果的に伝えることができるかも、明確ではない部分が大きいです。

 しかしそれでも、アカデミア業界に足を踏み入れて、周囲にはその業界に夢を持つ仲間(後輩)もいる私にとって、何も行動しないという選択肢を選ぶわけにはいかないようです。今回の「事業仕分け」で何が問題なのかをよく考え、意見を出したいと思っています。

 最後に、参考となるウェブサイトへのリンクを紹介し、「Read More...」には、日本分子生物学会、日本生化学会、日本薬学会からのメールの一部を抜粋して記載します。


 * 参考リンク *

競争的資金(若手研究育成)(文部科学省)に関する意見(本ブログ、2009年11月21日)
・「科学技術立国と呼ばれた日本の行方」(2009年11月13日、ブログ「大隈典子の仙台通信」より)
・「行動を起こそう」(2009年11月15日、ブログ「科学政策ニュースクリップ」より、NPOサイエンス・コミュニケーション
・「緊急メッセージ未来の科学のために」(同上)
文部科学省による意見受付 ==== ①日本分子生物学会からの連絡
②日本生化学会からの連絡
③日本薬学会からの連絡

+ + +

①日本分子生物学会、行政刷新会議の競争的資金の評価について」 (2009年11月18日)より一部を抜粋

 現在続行されている行政刷新会議事業仕分け作業の中には、我々研究者にとって研究の支障につながる重大な変更となる可能性のあるものがあります。
 11月13日に行われた行政刷新会議事業仕分け作業の内に、

 事業番号3-20  競争的資金(先端研究)
 事業番号3-21  競争的資金(若手育成研究)
 事業番号3-22  競争的資金(外国人研究者招へい)

があり、評価コメントには頷けるものもありますが、評価結果はいずれも厳しく、競争的資金(先端研究)については「一元化も含めシンプル化」と「予算の縮減」を、競争的資金(若手育成研究) と競争的資金(外国人研究者招へい)については「予算の縮減」となっています。

 これらの評価結果は直ちに来年度予算に反映すると思われます。文科省の担当部署でも危機感を募らせており、研究者からの意見を求めています。

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②日本生化学会事業仕分けについて・至急」(2009年11月19日)より一部を抜粋

 現在、政府の行政刷新会議による「事業仕分け」が行われており、来週には大学運営交付金や科学研究費補助金およびグローバルCOEなども仕分けの対象となっております。これまでの結果を見ると、わが国、さらには世界の科学研究の進展に大きな影響を与えると考えられる意見と結論が出されています。ぜひ、行政刷新会議ホームページをご覧下さい。またNatureなどでも大きく取り上げられています

 これに関して、日本生化学会としては研究体制検討委員会において中野明彦委員長を中心として充分に検討して行きますので、「生化学の進歩普及をはかり、もって学術、文化の発展に寄与すること」を目的とする本学会の会員としてぜひご意見をお寄せいただきたいと思います(中野委員長宛にメールでお願いします)。

 多くの問題がありますが、中でも若手研究者育成の問題、着実な研究成果を確保するための科学研究費補助金、また国際的評価や社会的要請の高い研究の進展に必要な大型の研究費の充実などは特にご意見をいただきたい所と考えます。
 
 以上、会員の皆様の積極的で建設的なご意見をよろしくお願い致します。


 ※ ブログ管理人追記
 Natureへの記事掲載については、ブログ「科学政策ニュースクリップ」にも紹介がありました。→ 「Nature、行政刷新会議仕分けに関する記事掲載」 (2009年11月18日)

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 ③日本薬学会、行政刷新会議の「事業仕分け」に対する意見表明のお願い」(2009年11月19日)より一部を抜粋

 報道されているように、政府の行政刷新会議では「事業仕分け」として各種事業の評価が非常に短時間で行われ、文部科学省科学技術振興機構などの研究助成事業に対して、非常に厳しい意見が出されています。俎上に挙がっているのは一部の事業ですが、今回の結論が同種の研究助成に対しても援用されるとの情報もあります。競争的研究資金の配分や評価方法については、今まで研究者コミュニティーが十分に議論を重ねて実績を積み上げてきており評価できるものと考えておりますが、短時間でバッサリ切り捨てられるのは、日本の科学の発展に大打撃を与えるものです。

 科学技術に対する低い評価は、薬学のみならず、日本の科学全体にとって重大な事態ですので、ご多忙とは存じますが是非皆様の意見を文部科学省副大臣政務官にメールしていただきたいと思います。

 意見は事業ごとに行っていますので、以下の事業についてお願いします。各事業について、万遍なく意見件数があることが重要だと思います。
 事業番号:3-20 事業名:競争的資金(先端研究)
 事業番号:3-21 事業名:競争的資金(若手育成研究)
 事業番号:3-22 事業名:競争的資金(外国人研究者招へい)
 事業番号:3-38 事業名:競争的資金(ライフサイエンス分野)
 事業番号:3-39 事業名:競争的資金(女性研究者支援)

 

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