えっ、飲用水道水に医薬品!? ~議論の現状と課題~

 2009年11月5~6日に開催された、日本薬学会環境・衛生部会のフォーラム2009において、衝撃的な内容のシンポジウムがありました。

 Forum 1 『医薬品廃棄物と環境汚染』

 ブログのタイトルには、私の感情を込めて衝撃的なものを付けてしまいましたが、始めに断っておくべきことおがあります。現状では、人の健康や生態系に対して危険なレベルの医薬品が水道水中にあるということが、確証されているわけではありません。しかし、医薬品を含む化学物質が超微量に含まれていることは間違いなく、悪影響が心配されてはいるようです。水道水の安全を保証するために、研究や対策が進められるべきであることは間違いないようです。

 特に、内容が広い知見を網羅し、かつ考えがまとめられていて勉強になったのは、次の2人の講演者のものでした。

・太田茂氏(広島大)
  「環境中における医薬品の代謝プロセス」
・益山光一氏(医薬品医療機器総合機構
  「医薬品の環境影響評価に関する一考」

 以下、論点を箇条書きでまとめ、記録しておきます。

・人の生活の中で日常に使用されている化学物質、いわゆる身体ケア用品(PPCPs)の主要なものの一つに医薬品がある。
・PPCPsの排出について、現状では規制はなく、管理されていない。
上下水道や河川水に、医薬品が少なくとも超微量に含まれていることは間違いない。人の健康や生態系に与える影響が懸念される。
・環境中(主に下水中)に排出される医薬品は、種類の多様性や生理活性の強さから、環境科学的側面からも注目すべき物質群であると考えられる。
・医薬品は人に対する安全性が確認されているので、環境中に排出された場合でも安全なのではないかという意見もある。生体内での蓄積性については、特に懸念されるものではないという意見もある。
・しかし、医薬品は『有用性がリスクを上回っていれば使用される』ものであり、環境中に放出され、リスクの側面だけを受ける者に対しては『安全』とは言い切れない。


 現状では、水道水中を含む環境中の医薬品濃度についてデータが出されているだけであり、このデータの捉え方はそれぞれの人の考えや立場により様々であるようです。このシンポジウムを聴いて、課題は次の2点であると私は感じました。

・医薬品としての安全性と、環境毒性として考えられるべき安全性は異なる性質のものであり、はっきりと分けて議論されるべき。
・環境毒性を考察する上では、リスクとなり得る化学物質の量が「ゼロであることはあり得ない」ことを理解し、実際に起こっている可能性のあるリスクを明確に示すべき。その上で、初めてリスクに対する対応策を議論することができる。(これは、環境中の医薬品濃度というテーマに限った話ではないが。)

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 ※2012年10月17日追記: この問題については、リスク評価研究会(FoRAM)第23回の講演でよく解説されています。

●「医薬品の環境リスクをどのように評価し管理するか」(東泰好氏=アストラゼネカ日本製薬工業協会、2012年1月31日)
 資料は→こちら分かりやすいスライドですので、ご関心のある方は是非ご覧ください。

 結論として、安心して“生活に不可欠な”医薬品を使っていただけるように、「「検出」=「危険」ではない」ことを説明するとともに(リスクコミュニケーションの重要性)、「冷静で客観的なリスク評価と柔軟なリスク管理が必要」であると述べられています。
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 本学会では他にも、衛生薬学、環境毒性学の現状と課題を知る上で興味深い講演やセッションがいくつもありました。この学会に参加するのは、ひとまず来年が最後になる可能性があるので(とはいえ、今回もたったの2回目でしたが)、次回(来年9月)までにさらに自分の考えを深めておきたいと思います。

 

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