腎臓の器官形成メカニズム@第82回生化学会大会

 生化学会1日目の報告は、私の研究を進める上でも注目する価値があるかもしれない、腎臓の発生(器官形成)についての知見です。

 『ネフロン前駆細胞による腎臓形成機構』

 Multipoint nephron progenitors in the embryonic kidney
西中村隆一氏(熊本大学発生医学研究所、器官構築部門、腎臓発生分野)
第82回日本生化学会大会・シンポジウム 1S8a-2

 西中村教授(熊本大学・発生研)の研究室では、腎臓の発生(器官形成)の分子機構を研究しているそうです。Sall1という遺伝子が腎の発生に必須であることを示し、その欠失マウスでは腎臓が欠損することを示しています。

  Nishinakamura R, Matsumoto Y, Nakao K, Nakamura K, Sato A, Copeland NG, Gilbert DJ, Jenkins NA, Scully S, Lacey DL, Katsuki M, Asashima M, Yokota T: Murine homolog of SALL1 is essential for ureteric bud invasion in kidney development. Development 128: 3105-3115 (2001)


 この論文では、間葉(mesenchyme)にSall1遺伝子が発現しており、これが尿管芽(ureteric bud)に働きかけてることが、ネフロン(糸球体と尿細管、毛細血管からなる腎臓の構成単位)を構築する重要なプロセス(マウスでは胎齢11.5日目)であることを示しています。
 Sall1を発現する間葉細胞と尿管芽との相互作用の実態は、間葉からのGDNFの発現と、尿管芽からのWnt9bの発現を介した相互作用であるそうです。この相互作用の結果、間葉と尿管がセットで分化した後に、間葉細胞がWnt4を発現しながらネフロンを形成していきます。
 ここで、胎生期に存在する後腎間葉細胞は、腎組織の各細胞の前駆細胞としての役割を持っており、Wnt4により上皮化した後、腎を形成する様々な細胞に分化していくそうです。
 西中村氏は一連の研究により、Sall1 KOマウスではこの尿管を引き寄せる過程が起こらないことを示しています。その結果、間葉にある前駆細胞アポトーシスして、結果的に腎が欠損してしまいます。


 ・・・と、バーっと書いてしまうと難解なのですが。
 とにかく、当たり前のように自分の中にある体の中の様々なパーツは、どれも生まれる前や後に、複雑なメカニズムを介した反応の結果として完成したものです。

 結論。体は大切にしましょう。
 (私は、この知見をいつか研究に活かしましょう。)


 リンク: 熊本大学発生医学研究所


 参考: 糸球体の形成におけるSix2の関与を示した論文

  Kobayashi A, Valerius MT, Mugford JW, Carroll TJ, Self M, Oliver G, McMahon AP: Six2 defines and regulates a multipotent self-renewing nephron progenitor population throughout mammalian kidney development. Cell Stem Cell 3: 169-181 (2008)
  Self M, Lagutin OV, Bowling B, Hendrix J, Cai Y, Dressler GR, Oliver G. Six2 is required for suppression of nephrogenesis and progenitor renewal in the developing kidney. EMBO J 25: 5214-5228 (2006) ====

 結局、前夜は一睡もせずに生化学会に来ました。移動の間、電車で30分弱、飛行機で1時間弱寝たでしょうか。

 東京モノレールでは、浜松町・天王洲アイル間で、朝日をバックにレインボーブリッジの入った、とてもきれいな絵を見ることができました。

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 浜松町 6:30 → 6:49 羽田空港第1ビル

 神戸へは、新幹線より安いスカイマークで!

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 羽田 7:20 → 8:35 神戸 (SKY101)

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 飛行機は、目的地=神戸空港で嫌でも降ろしてくれるので良かったです。もし朝一の新幹線で来ていたら、新神戸を寝過ごして、西国へ旅立ってしまっていたことでしょう。
 早く家を出たおかげで、学会の開始には間に合い、開始直後にあった上述の腎の発生についての講演を聴くことができたので、よかったです。缶コーヒーをずっと持ちながらの学会参加でしたけれど。

 生化学会には、若手の会の人が何人か来ています。同年代の人がいっぱいいて楽しいです。あと3日間、楽しんできます。