私は研究でリアルタイムPCRを頻繁に使っています。そこで、プライマーの設計法を質問されることもあるので、リアルタイムPCR用のプライマーの設計法をここに整理しておきます。
プライマーは、計算値をもとにソフト等も用いながら設計します。ただ実際にPCRがうまく進むか否かは、実際にPCRを実施しなければ分かりません。計算上適切とされたプライマーを手に入れた後、実際にPCRを掛けてその産物をチェックし、プライマーの設計がうまくいったかどうかを確認する必要があります。
というわけで、そのプライマーを「設計するまで」の方法を以下に示します。(1つの記事に載せられる写真の数が限られているため、3つの記事に分けます。)
まずは、ターゲットの遺伝子の配列を検索します。
1) ターゲットの配列を検索する
例えば、標的遺伝子のmRNAを定量するために、cDNAをテンプレートとしてPCRを行う場合には、NCBIのNucleotideデータベースから標的遺伝子のmRNAの配列を検索できます。
NCBI: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/
例: mouse CCL2のmRNAの配列の検索
① SearchのカラムでNucleotideを選択する。
② 標的遺伝子の名前を入れる。
③ 「Go」をクリックする。
目的の遺伝子を選ぶ。
→ 一番下に配列が出てきます。これをもとにプライマーを設計します。
リアルタイムPCR用のプライマーの設計にあたり、ターゲットの遺伝子の配列の他にも、エクソンの結合部位を検索する必要があります。(mRNAの定量の場合。)
2) エクソンの結合部位を検索する
プライマーのペアは、ペアによりイントロンの領域を挟むように設計します。こうすることで、cDNA合成時にゲノムDNAが混入していた場合でも、ゲノムDNA由来のアンプリコンの増幅を避けることができます。このイントロン領域が十分に長ければ、リアルタイムPCRにおける伸長時間(45秒~60秒)でゲノムDNA由来のアンプリコンの指数関数的な増幅は起こらないことになります。
mRNAの配列を確認したページに、GeneIDのリンクがあるので、ここに進む。
DisplayからGene Tableを選ぶ。
(※ 2011年6月・追記: これを選べるページの表示が、上の画像とは異なっているようです。現在のページでは「Display Settings」の文字列をクリックすると、Gene Tableなどを選択できるタブが開きます。
ExonとIntronの情報があるので、1)でチェックした標的遺伝子のmRNA中のExonの結合部位を確認する。
1) 2)が済んだら、いよいよプライマーの設計です。ここで、いくつかのポイントがあります。初めは大変かもしれませんが、コツが掴めたら楽になるでしょう。
3) プライマーを設計する
プライマーの作り方は以下のとおりです。
☆ プライマーの長さ: 20~22(17~25)塩基
短すぎるとTm値を確保できず、長すぎると非特異的なアニーリングが起こる。
☆ 増幅産物(アンプリコン)の長さ: 80~150塩基
これ以上長いと、リアルタイムPCRでの伸長時間では伸長できなくなる。
☆ エクソンの結合部位を挟むように、プライマーのペアを検索する。
★ 反復配列は避ける。また、AT/GC比が偏らないようにする。(GC含量≒50%)
★ 3'末端に結合の特異性を持たせる。
3'側のGC含量が高くならないようにする。最後の5塩基中、GCの数は2つ程度であることが望ましい。
★ GC clump
3'末端で確実にプライミングできるように、最後の1塩基はGかCにすることが望ましい。逆に、ミスプライミングを防ぐため、3'末端の最後の1塩基にTは避ける。
※ 例: 私はWordファイルにmRNAの配列をコピーして、プライマーを設計しています。赤でエクソンの結合部位、黄色でForward primerの3'末端候補、緑でReverse primerの3'末端候補をマークしています。
このようにしてプライマーのペアの候補を複数設定し、プライマーがダイマーを形成しないか等といったことを検討してください。有用なソフトは、いろいろな所にあると思います。今回は最後に、上の赤字・二重下線で示した所にプライマーを置いてみました。
4) 配列の特異性を確認する
プライマーによる増幅領域が、標的遺伝子に特異的であることをBLAST検索で確認します。
BLAST: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/Blast.cgi
初めに生物種を選んだ後・・・
ここにプライマーのペアで増幅される部分の配列を貼り付けて、「Begin Search」をクリック。
→ リクエストの確認画面が出るので、「View Report」をクリックする。
→ 標的遺伝子のゲノムDNA(と、もしかしたらmRNA)しか抽出されていなければOK。(一応、私はこの方法で確認していますが、もっと適切な方法があるかもしれません。)
プライマーの設計法は以上になります。ただ、繰り返しになりますが、実際にPCRがうまく進むか否かは、いくら計算等をしても実際にやってみなければ分かりません。プライマーを手に入れた後、実際にPCRを掛けてその産物をチェックし、プライマーの設計がうまくいったかどうかを確認する必要があります。
<こちらも参考に>
●リアルタイムPCRの条件検討(タカラバイオ)
・NCBI
・Primer Bank
・BLAST
・Primer Blast
要点(手順の一例)