メディア・バイアス

 松永和紀著『メディア・バイアス』(光文社、2007)の紹介です。



 メディア・バイアスとは、「メディアによる情報の取捨選択のゆがみのこと。多種多様な情報の中から、メディアは白か黒かを簡単に“決めつけることのできる”ものだけを選び出して報道するために、このバイアスが生じる。」
 「情報の受け手は、建前の議論と報道の陰にある科学的な本質を見て判断しなければならない。」

 本著ではそう記され、その根拠となる複数の事例が紹介されています。そして、次の問いを読者に考えさせます。

・メディアで語られる情報はどのようなものに偏っているのか。
・メディアの取材先はどのように絞られるのか。


 本著で解説される事例は、メディアの一側面に過ぎないとは思います。しかし、そのような面がメディアにあることを理解し、注意を払うことは必要であろうと思います。なぜなら「情報を“無責任に”広げていくメディアの責任を問う」ことは、残念ながら容易でないためです。

 本著は、メディアの側にこのような要求もしています。

・「報道関係者は緻密な取材を重ね、自分なりに咀嚼し、分かりやすい言葉で(一見難解な情報も受け手に)伝えなければならない。その努力をしない限り、本当の科学報道はできない。」
・「専門知識を蓄えるにはある程度の年数と取材経験が必要。科学取材は、とくに日頃から文献に目を通しておく必要がある。」

 私は、とくに終盤の「政治経済に翻弄される科学」の章で、自然科学の知見を社会に活用するためには理論や原理だけでは十分ではないという現実について考えさせられました。それは、科学的知見を社会で応用するためには何が課題になるのかを考える上で大切になることです。
 最後に、本著の中に興味深い団体やウェブページの紹介があったので記録しておきます。

●食と健康
食品安全情報blog(畝山智香子さん)
American Council on Science and Health(米国保健科学協議会)

●科学者の倫理
Office of Research Integrity (ORI) - US Department of Health & Human Services(米国保険福祉省 研究公正局)
日本学術会議声明‐科学者の行動規範について(PDF、2006年10月3日)