“社会の要請”に科学界はどう応えるべきか

「市民のための科学へ 模索は続く」

このようなタイトルの記事が
今年5月の学術誌Natureに掲載され、
最近のNatureダイジェスト(日本語版)でも
紹介されていました。
研究投資からの利益(見返り)を望む社会の要請に
応えられるようにするための模索と、
それに向けて始まっている具体的な取り組みの例が
紹介されています。

Science for the masses
by Corie Lok
Nature 465: 416-418(2010年5月27日)


この記事によると、米国立科学財団(NSF)では、
助成する研究に対して、科学ないしは社会全体に
“broader impact(より幅広いインパクト)”が
もたらされることを要求しているそうです。

具体的に、“より幅広いインパクト”としては
次の2つが示されています。

・プロジェクトの有用性や妥当性
・科学と工学の基盤に与える影響

これは、研究テーマの社会的価値の評価を
促す施策として他になく積極的なものです。

しかし、ここにも課題があるようです。

まず、これをもたらす活動の価値が
なかなか見えてきていないという現状。
この現状を作ってしまっている原因の一つとして、
NSFが“より幅広いインパクト”を
重視した活動の追跡調査をしていないことが
指摘されています。

また、もう一つの現状として、
研究者がその活動をしようとした場合でも、
実際に何をすれば良いのかが
簡単には分からないこと。
NSFは、活動の選択肢を狭めないために
要求を抽象的なものに留めているのかもしれません。
しかし、そのような要求の提示に対して
具体的な行動を取れる研究者は
決して多くないのだと思います。


さらに、もう一つ議論されるべき課題があります。
それは、この“より幅広いインパクト”を
もたらすための活動を、
果たして個々の研究者(研究代表者)が
する必要があるのかという点です。
これをすべきは個々の研究者の責務ではなく、
研究者の所属機関がなすべきではないか
という意見があるそうです。

(私もそう思います。
 この活動に研究者も関与すべきですが、
 活動のコーディネートは機関レベルで
 行った方が良いと思うのです。)

この点は、現在ホットな話題かと思います。
私は先日行われた「生命科学夏の学校」でも
複数の先生とこれについての議論をしました。
今日参加した早稲田大学でのワークショップでも、
懇親会で度々その話題が挙がりました。


以上、私見を交えながらNatureの記事を
紹介致しました。
社会の中での科学者の役割というテーマについて
考えたり興味を持ったりしている方には、
是非読んで頂きたいと思います。