記事紹介:酸化チタンナノ粒子、マウスの脳の発達に影響を与える

 昨年発表した英語論文の一つが、化学物質問題市民研究会ウェブサイトで解説されていましたので、ここで紹介します。

 『TiO2ナノ粒子 マウスの脳の発達に影響を与える』(SAFENANO、2009年7月30日)

 紹介された論文はこちらです。

 Shimizu M and Umezawa M et al:
 Maternal exposure to nanoparticulate titanium dioxide during the perinatal period alters gene expression related to brain development in the mouse.
 Part Fibre Toxicol 6:20 (2009)

 以前に私たちの研究室では、酸化チタンを妊娠マウスに投与すると、それが産仔の脳で見つかることを報告しています。それでは、同様のスケジュールで酸化チタンを投与したときに、脳ではどのような変化が起こるのでしょうか。
 それを解析して報告したのが、紹介された論文です。この論文では、脳での遺伝子発現変動をマイクロアレイを用いて解析しています。併せて、マイクロアレイデータの新しい解析法の開発にもトライしています。
 (※2013年3月28日追記: なお、この結果で重要なのは、遺伝子発現の変動パターンを経時的に捉え、各時点における変動の機能的偏りの違いを見出した点であると考えています。)

 以下に、化学物質問題市民研究会のページから、一部を抜粋(一部改)して紹介させて頂きます。論文のデータが正確に捉えられ、中立的かつ冷静な視点を持って書かれた非常に優れた解説であると思います。訳者の安間武氏に謹んで御礼申し上げます。

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 GO termを用いての遺伝子発現の分析は、アポトーシス(プログラムされた細胞死)に関連する遺伝子の発現レベルは新生仔の脳で変動し、脳発達に関連する遺伝子発現は早い時期に変動していた。酸化ストレス反応に関連する遺伝子は2~3週の年長マウスの脳で変動した。神経伝達と精神疾患に関連する遺伝子の発現は、MeSH termを用いて見出された。

 著者は、“発現変動した遺伝子と関連する疾病は、通常、小児期に発症すると考えられる自閉症てんかん学習障害や、主に壮年期又は高齢期に生じるアルツハイマー病、統合失調症パーキンソン病などを含む”と述べた。

 ただし、この遺伝子発現データは直接的な健康影響と解釈することはできないということに留意すべきである。さらに、ナノ粒子は意図的に高用量で注入されたので、現実の曝露との関連性は限定されるかもしれない。

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 ここでは、妊娠中のナノ粒子の曝露による健康影響を考える上で興味深い論文を、もう一つ紹介します。

 Wick P. et al: Barrier Capacity of Human Placenta for Nanosized Materials.
 Environ Health Perspect 118(3): 432-436

 こちらも、化学物質問題市民研究会ウェブサイトで解説されています。

 『あるナノ粒子は胎盤関門を通過する可能性がある
(SAFENANO、2009年11月20日

 (以下、SAFENANOの当該ページより一部抜粋・一部改)

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 近年、妊娠中の大気汚染物質への曝露の健康影響の可能性についての懸念、したがって子宮内でのナノ粒子曝露の潜在的なリスクについての暗黙の懸念が増大している。知識のギャップを埋めるという観点から、スイスの研究チームはナノ粒子が胎盤を通過するかどうかという問いに目を向けた。

 この研究で、ピーター・ウィックらの研究者は、ナノ粒子が胎盤関門を通過する可能性を調査し、このプロセスが粒子のサイズに依存するかどうかを調べるために、二重再循環ヒト胎盤灌流モデル(dual re-circulation human placental perfusion model: 生体外の人工環境中での胎盤通過の測定を可能とする生体外システム)を用いた。

 著者は、“この研究の主要な発見は、径が240nmまでのポリスチレン粒子は胎盤を通過することができることを示したことである”と報告している。径が240nmより大きな粒子はこの胎盤関門を通過することが難しく、これらの粒子の胎盤通過はサイズに依存することを示している。

 ただし、ナノ物質の成分と表面コーティングも胎盤通過性に影響を与えると考えられる。本論文ではこれを踏まえ、胎盤通過性がナノ粒子のそれぞれのタイプごとに評価されるべきであることも強調されている。

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 以上の研究内容・分野について関心のある方、ご意見やご質問のある方は是非、下のコメント欄又はメールにてご連絡ください。
 runner_fromgoka@yahoo.co.jp(梅澤)


※参考(後日エントリ)
「ナノ粒子健康科学研究センター」研究報告会
 私の提案する方法に独特の点とその方法により得られた成果(2011年3月8日)
ナノ粒子の健康リスク‐国際シンポジウム・論文発表報告
 ナノ粒子の胎児期曝露により腎組織に生じる影響(2011年8月11日)
ナノ粒子の機能的ターゲットとなる「脳領域」の探索(遺伝子発現データから)(2012年8月22日)

※2013年7月23日、複数の方から頂いた質問への回答を追記しておきます。
 Q. 食品、サプリメント中の二酸化チタンによる健康影響の可能性は、ここに書かれていることと同様なのでしょうか?
 A. そこに含まれる二酸化チタンは白の着色料として用いられており、ナノサイズの粒子ではないことから、“ナノ粒子の健康影響”が起こる可能性は無いと考えられます。実際に私たちが研究を行っていても、ナノサイズに分散した二酸化チタンナノ粒子は無色透明であり、見えないことが判っています。食品やサプリメント中に着色料として用いられている二酸化チタンは、“ナノ”よりもずっと大きな粒子の形で使われているのです。